第102話 ギルマスに説明

■ギルドマスター・スティング


俺は執務室でモルメルから話を聞く事にした。


「モルメル、何があったか詳しく報告しろ」


モルメル「あのっ、その、猫が来まして……。その猫が訳分からない事を言うんですよ。いえ、アタシはダメだって言ったんですけどね?」


「待て待て待て。猫? 喋った? モルメル、大丈夫か……???」


モルメル「大丈夫? 何がです? ダメだったのは猫のほうですよ? だからアタシは言ってやったんですよ、お前には無理だって。でもソイツが強情を張るもんですからね、ラルゴに試させて…、そしたら意外とやるな、なんて事になって、その後ランクアップで、ゴブリン狩りに行って、ドラゴン納品して…」


「待て待て待て。話が見えん! 何の話だ??? 決闘の話じゃないのか? ラルゴが猫と決闘して殺されたのか? ドラゴン???」


モルメル「いえ、ラルゴは死んでません、決闘したのは別の人間でして…」


「簡潔に報告しろ!」


モルメル「…その、一言で言うと、猫が来て、嘘をついて、決闘をして……三人殺されましたっ!」


「ダメだ、さっぱり分からん…。仕方がない、ノアを呼べ!」


モルメルはその気風きっぷの良さをリーダーとして評価しているのだが、頭はあまり良くないのが欠点だ。時々、焦ると訳が分からん事を言い出す事がある。


その点ノアは、喋り方は独特でマイペースだが、意外と頭が良く、率直な物言いはシンプルだがいつも的を射ている。


モルメル「いえっ、アタシがっ! 説明します! ノアはいいです、アタシがちゃんと、説明しますので…」


「いいから呼べ。時間の無駄だ」


静かに睨みつけるとモルメルは観念したようで、ノアを呼びに行った。


待つ間、机の上に積んであった書類に目を落とす。すると、手紙が置いてあるのが目についた。宛先は俺宛だが、既に開封されている? 俺宛の手紙を誰が開封したのだ?


手紙は気になったが、すぐにノアがやってきたので、先に話を聞く事にした。



   *



ノア「ええとーじゃぁ順番に説明するねー。まずー、冒険者登録したいっていう新人の方がやってきましてー。それがー、かわいい猫ちゃんだったんですー。いわゆる先祖返り系獣人というやつですねー、小柄な喋る猫ちゃんだったんですー」


「なるほど、それで猫か。それで?」


ノア「でぇ、休憩時間だったんですけどー、猫ちゃんがかわいかったのでボクが対応したんですー。そしたら周囲の冒険者が順番守れって怒りだしてー。そしたらモルメル主任が来てー。猫ちゃんの登録処理は主任がやるって言いだしてー」


モルメルの顔を見ると黙っているので間違いないようだ。


ノア「そしたらー、お前みたいなチビ猫に冒険者がつとまるかってラルゴが騒ぎたしてー……。違った、ラルゴじゃなくてニーゾだったかな? まぁどっちでもいいや。それでー、ニーゾと猫ちゃんが喧嘩みたいになっちゃってー。そしたら主任が猫ちゃんに、登録するには試験が要るからちょうどいい、ラルゴにやらせるって言い出してー」


「試験?」


ノア「登録だけなら試験は要らないはずなのにー」


モルメル「いえっ! その、その猫が言う事が怪しくて。アタシもGとかHとかの登録ならそんな事いうつもりはなかったんですよ? それが、その猫、自分はSランクの実力があると言い出しましてね」


(※Hランクは子供用、Gランクは街の中の依頼しか受けられない。)


ノア「猫ちゃんは紹介状持って来てましたー」


「紹介状?」


モルメル「ちょ、余計なこと…! いえ、そんなの、だって…信用できないじゃないですか? 新人がいきなりSランクですよ? 獣人のチビネコが? たとえ皇帝陛下の推薦状があってもギルマスだって認めないでしょう?!」


「うむ、まぁ、いきなりSランクはな…」


モルメル「で、ニーゾ達が模擬戦やりたいって言うんで、ちょっと試させてみようかと…」


ノア「で、結果は猫ちゃんのあっしょー! ボクも見てたけど、ラルゴとニーゾ、ギッタギタにやれててワロタ。で、猫ちゃんは無事登録が認められたんですーFランクですけど」


モルメル「当然でしょ! でも、その猫、Fじゃ気に入らないって言い出しまして。ラルゴはCランクなんだから、ラルゴに勝った自分は最低でもCじゃないとおかしいって…」


モルメル「だから、言ってやったんですよアタシは。冒険者のランクってのは、単に模擬戦の強さだけじゃダメなんだよ! ってね」


モルメル「で、ランクを上げたかったらちゃんと条件を満たして試験を受けろって言ったら、猫も納得したんですよ…」


ノア「でー、猫ちゃん早速試験の条件をクリアするためにゴブリン狩ってきてー、納品してー」


「ちょっと待て、今日一日の話だよな? ゴブリン狩って帰ってきたって?」


ノア「猫ちゃん強いんだよー、猫ちゃんならそれくらいきっとできるよー」


「…まぁその事はとりあえずいいか、それで決闘って話はどうなったんだ?」


ノア「ゴブリンだけじゃランクアップ試験の条件に足りないって知って猫ちゃんが、持ってるドラゴンの素材を納品したんですー」


「……ドラゴンだと?!」


ノア「猫ちゃんはトカゲだって言ってたけどねー」


モルメル「そうなんです! それで猫が納品担当職員タイラーを脅したとかで。それを見ていた冒険者達が怒って、決闘に…」


ノア「やっと決闘まで辿り着いたー」


「ちょまて、脅したってなんだ? というかドラゴンの素材?!」


ノア「うん、ドラゴン。猫ちゃんはトカゲだって言ってたけど、ドラゴンだった、みたいな?」


「どっちなんだ? まぁいい直接聞こう! ノア、納品担当職員タイラーを呼んで来い!」



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