第101話 ギルマス戻って来る
ノア「あれ? 決闘は中止になったのー? よかったねー」
決闘を終えて受付ロビーに戻ると、ノアが声を掛けてきた。
「別に中止にはなってないにゃ、もう終わったにゃ」
ノア「え、もう…? 結果は…猫ちゃんがここにいるんだから推して知るべし! 良かったねー!」
「ありがとにゃ」
ノア「あ、納品した、ドラゴンの素材?」
「トカゲにゃ」
ノア「…トカゲの素材の代金なんだけどー、見積もりに時間が掛かるので、結果はまた後日にして欲しーって、タイラーさんが言ってたよー」
ノアの視線が俺の後ろを向いたので追って見ると、タイラーが柱の影からこっちを見ていた。だが、俺と目があった瞬間、タイラーは『ひっ』と言って引っ込んでしまう。
脅しすぎたか?
「まぁ、仕方ないにゃ…。じゃぁ今日はもう帰るにゃ」
ノア「あ、どこに帰るのー? 連絡先が登録されてないから、今泊まってる場所教えてー? 冒険者は、緊急の連絡が必要な場合があるから、住所や宿泊先を報告してもらってるのよー」
「住所? は分からんけど、メイヴィスの家に居候してるにゃ」
ノア「メイヴィスさん? どちらのメイヴィスさんかしらー?」
「賢者のメイヴィスにゃ。フルネームはメイヴィス……ワダバールとか言ったかにゃ?」
ノア「ワダバルさんねー、住所は分かるー?」
「住所は分からんにゃ。今度聞いてくるにゃ」
ノア「りょうかいー。じゃぁまた明日ねー待ってるにゃー」
「にゃー」
冒険者ギルドを出たが、考えてみれば、いつまでもメイヴィスの屋敷にやっかいになっているわけにも行かない。
メイヴィスは『屋敷の一室を“カイト専用”にしたのでいつまででも居ていい、もし帝都を離れる事があったとしても自由に使ってよい』と言っていた。部屋は広く最高級の家具が用意されており、風呂とさらにはキッチンも用意されている。
キッチンはともかく風呂は使う事はないのだが。猫だからな。風呂に入る趣味はないのだ。猫は…いや、猫でなくても元々俺は綺麗好きであるのだが、この世界では【クリーン】という魔法で常に清潔に保てるから、わざわざ風呂に入る必要はないのだ。
(ちなみに前世でも特に風呂に入る趣味はなかった。別に嫌いという事はなかったが、温泉地に旅行に行くとか銭湯巡りとかスーパー銭湯やサウナに通うとか、そういう趣味はなかった。というかそんな事する余裕は一切なかったからな…。時間に追われる社畜生活だったので効率重視で短時間でシャワーを浴びれば十分、それすらできない日もあるような生活だったから…。一応住んでいるアパートにユニットバスはついていたが足を抱えて入るのがやっとのサイズだったし、ほとんど使わなかったな。)
それに、猫になってみて、猫が風呂を嫌がる理由がよく分かった。毛が濡れると非常に不快だし、体温を奪われるのだ。まぁ魔法ですぐに乾かせるので濡れても特に問題はないのだが…。
以前、この世界に来たばかりの頃は風呂を作って浸かってみたりもしたし、それはそれでやっぱりいいなと思う気持ちもなくはないが、種族特性のほうが勝るというか。結局その後は面倒なのもあって、徐々に入らなくなってしまった。
(ちなみに【クリーン】の魔法は息をするように使っているので、地球に居た頃よりずっと清潔かもしれない。ちょっとでも汚れたらすぐに魔法でキレイにする。自分の体だけじゃなく、服や寝具、身の回りの家具も。キレイ好きなのは種族特性か? さすがに舌で体を舐め回す事はしないが。地球の動物だって【クリーン】が使えたらグルーミングはしないだろ。)
風呂は使わないが、ベッドは最高であった。最高級の布団が使われてふわふわである。
まぁ要するに、徹底的に居心地良くする事で俺を帝都に居続けさせようという作戦なのだろう。なんなら、その一室を完全に俺の所有物にして、改修して、自由に俺が出入りできるよう専用の出入口を設けるとも言っていた。
それを聞いて逆に別にメイヴィスの屋敷に居候する必要はないだろうと俺は思ったが。どこかにちゃんと自分で家を買うなり建てるなりして、拠点を作っても良いとは考えるようになったのだ。
(気がつけば、いつのまにか帝都に住む事を考え始めている。うまくメイヴィスに思考誘導されている気もするが。メイヴィスは色々な案を提示しているだけ。それを聞いて俺がどうするかは自由にすればよいと言っていた。)
まぁ別に、帝都の中に住まなくとも、転移で森の中から通っても構わないのだが……ノアに言われて気がついた。帝都でいつまで活動するかは分からないが、居る間は、連絡がつく手段として、ポスト代わりに手紙を届ける場所を定めておいたほうがいいかもしれない。仮に転移で出入りするにも、町中にいきなり出現するのも問題がありそうなので、どこか出入りできる家または部屋があったほうがいいだろう。
今度、場所を探してみるか。屋敷を出ると言ったらメイヴィスは嫌がるかな? いや、メイヴィスの事だ、俺がそう言い出す可能性まで見越しているだろうな。
+ + + +
◆冒険者ギルド
ノア「あ、マスター、おかえりなさーい」
スティング「すまん、遅くなった。会議が長引いてしまってな」
カイトが冒険者ギルドを後にしてしばらくしてから、帝都城東支部のギルドマスター、スティングが戻ってきた。
モルメル「お帰りなさいマスター!」
スティング「紋章確認用の魔道具、修理できてるぞ」
魔道具を受け取りしめしめという顔をするモルメル。まだカイトの紹介状はみつかっていないが、この道具がなければ紋章の確認はできない。適当なところに隠してしまおう。
だがノアが余計な事を言いだした。
ノア「あ、主任! 私がしまってきますよー」
モルメル「え?! あ、いいわ、私が後で片付けておくから」
ノア「えー、でもー、所定の位置に戻しておかないとー、他に使いたい人が居た時に困るじゃないですかー」
モルメル「いいのよ、コレの管理は私がするから! 使いたい人が居たら私に言――」
スティング「それで? 変わりは何もないか?」
モルメルとノアの小声のやり取りなど聞こえていないスティングが被せてくる。
モルメル「え? ああ、いえ、特には何も~」
ノア「色々あったんですよー」
モルメル「ちょっ何言ってるのよ!」
ノア「だってー冒険者が三人も死んでるんですよー? それ聞いて私ビックリしちゃいましたー。まぁ猫ちゃんに絡んでた不良冒険者達だから、自業自得ってみんな言ってましたけどー」
スティング「…死んだ? 何があったんだ?! モルメル?!」
ノア「冒険者同士の【決闘】があったんですー」
モルメル「ちょ! 報告は私がするから、あなたはあっちに行ってなさい!」
仕方なくモルメルは魔道具をノアに押し付け追い払った。
スティング「モルメル、部屋で詳しい報告を聞かせてもらおう!」
モルメル「……はい……」
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