第100話 決闘とは命のやりとり
俺達はまた訓練場に移動した。
モブラー「ルールは?」
「ルール? 決闘、殺し合いにゃろ? 何でも有りが普通じゃにゃいのか?」
モブラー「……なぁ、おまえ……、今ならまだ間に合うぞ? 嘘をついていたことを認めて謝れば許してやるぞ?」
「俺はお前達が謝ってもやめる気はないにゃ。俺は嘘なんかついてないし、それをこれから決闘で証明するにゃ。死ぬ事になるお前達は少し気の毒だが、絡んで挑んできたのはそっちにゃんだからしょうがないにゃ」
モブッチ「なら死ね!」
いきなりモブッチが何かの粉を投げつけてきた。それに呼応してモブラーも剣を抜き振り上げた。モブッチが投げたのは毒か、目つぶしか? 決闘なのだからそれくらいは当然使うよな。
だが、モブッチが投げた粉は俺に当たらず床に落ち、モブラーは振り上げた剣を振り下ろす先を見失い動きが止まってしまう。
俺は既にモブラー達の間をすり抜け、背後に移動していたからだ。
そして……
一瞬遅れて、モブラーとモブッチの体が水平に五分割され床に散る。すれ違いざまに右と左の四本の爪それぞれから発せられた風刃が二人の体を通過していたからである。
最後の一人、決闘の話が出てからずっと黙りこくっていたモブコフは、剣を抜き構えはしたが、数歩後退っていた。
俺と目があうモブコフ。その瞬間、モブコフは叫んでいた。
モブコフ「参った! 降参します! 許し…て…あれ…?」
「遅かったにゃ。戦る気がないなら、決闘を始める前に言うべきだった…」
モブコフは土下座して許しを請おうとしたようだったが、その時には既に俺の爪から放たれた風刃はモブコフの体を通過してしまっており、モブコフの肉体は土下座の形になる前に五つに分断され崩れ落ちていったのであった…。
一面の血の海。切り分けられた人間だったものの塊がいくつか。
原因となった俺がこのままにしておくのはまずいか?
「さて……このまま放置してったら迷惑だよにゃ?」
モルメルに向かって問いかけたが……
「……掃除しとくにゃ」
顔面蒼白で絶句しているモルメルは無反応であったので、勝手に掃除しておくことにした。
いつものように、飛び散った血も含めてすべて亜空間に収納しておく。もちろん死体処理用の専用亜空間である。内部の時間は停止しているので腐ったりはしないが、他のモノと一緒には入れておきたくないしな。
+ + + +
■モルメル
戦いは唐突に始まり、唐突に終わった。戦いを見に来ていた
まだ訓練場に入りきれていなかった冒険者達が、後ろから『おいどうした?』『立ち止まるなよ』などと言っている声が聞こえている。
決闘。
それは命の奪い合い。
頭では分かっていたが、どこか、現実感がなかった。
過去には冒険者同士の決闘も何度か見た事があった。だが実力伯仲でグダグダの戦いの末、怪我はしても命を奪うまでには至らないケースばかりであったのだ。
まさか、一瞬で、あっさりと、いとも簡単に、三人の冒険者の命が失われるとは思わなかった。
正直、本当に殺すとは思っていなかった。
最悪の事態でも怪我で済むだろうと思っていたのだ。大怪我をして後でギルマスに怒られるかも知れないとは思ったが、正式に【決闘】の手続きをしている以上、大きな問題にはならないだろうと思っていた。
いや、正式な【決闘】の結果なのだから、死んだとしても問題はないのかも知れないが……それは当事者の話。
ギルド職員としては、Bランクの冒険者三人の命が失われる事態になった事は、問題があるだろう。どうして止めなかった? そうなる前にうまく調停・仲裁できなかったのか? とギルマスには怒られるだろう。
一瞬で三人を輪切りにした凶悪な猫が、掃除したほうがいいか? とアタシを見て言ったけど、返事ができなかった。
掃除しておくと猫が言った。
直後、大惨事の痕跡は凶悪猫の魔法で一瞬で何事もなかったかのようになくなってしまう。
これは……【収納魔法】? 死体と大量に流れた血を全て収納したのだろう。まるで、狩りをして斃した獲物を回収するように……
猫「俺が嘘をついていないって信じてもらえたかにゃ?」
そう言われても、アタシは声を出せず、小さく頷く事しかできなかった……。
フリーズしていた冒険者達が騒ぎ出した。
『おい…! 殺す事はねぇじゃねぇか…! 模擬戦じゃなかったのか?!』
『いや、“決闘” だって言ってたぞ』
『じゃぁ殺してもいいのか…』
『いいわけねぇだろ』
『モブラーが殺されるとは…』
『
一瞬、不穏な空気が走る。
しかも態々猫がそれを煽るような事を言う。
「戦りたいなら相手になるにゃよ? もちろん模擬戦じゃなく【決闘】にゃ。死にたい奴は手続きをしてくるといいにゃ」
『……いや、実力差も分からず、格上の相手を挑発した結果だ。自業自得だ』
と冷静に言った冒険者が居た事で、一触即発の殺気立った空気は終息していった。
『だいたい、絡んでいったのはモブラー達のほうだぞ?』
『アイツら、最近調子に乗ってたからなぁ、いつかこんな目に遭うんじゃねぇかと思ってたよ…』
『誰だアレ? てか猫? 見ない奴だな』
『新人冒険者らしいぞ』
『ドラゴンをソロで狩ってきたとか言ってたけど、本当のようだな』
『とんでもねぇ化け物が現れたな…』
アタシも、心のどこかで、生意気なちび猫が懲らしめられればいいと思っていた。だが、アレは確かに化け物かもしれない。ヘタをすればアタシも切り分けられてしまうかも……。
アタシはその場にへたり込み、我が身を抱えた…。
「ギルマスになんて言おう……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます