第99話 おかしいと思いますー

モブッチ「おうおうチビネコ! 調子が悪かったラルゴを倒して調子にのっているとみたいだが、俺達も同じように行くとは思うなよ?」


「ごちゃごちゃうるさいにゃ。喧嘩売るなら買うにゃよ?」


普段温厚な(と自分では思っている)俺にしては好戦的だが、メイヴィスにも言われていたので構わないだろう―――『遠慮する事はない、思い切り暴れてこい』と……。


何やらメイヴィスは今の冒険者ギルドに思うところがあるらしく、なんならぶち壊してしまってもいいとさえ言っていた。責任はメイヴィスと皇帝陛下が取ってくれるそうだ。


モブコフ「喧嘩じゃねぇよ、模擬戦だ。付き合ってくれるよな?」


モブラー「ドラゴン狩ったというのは嘘だと認めて土下座して謝るなら許してやってもいいぜ?」


「模擬戦か……。正直つまらんにゃ。さっき初めてやったが、殺されないルールでやってるから、あんなチンケなトカゲも一人で狩れない程度の実力しか身につかないんじゃにゃいのか? 帝都の冒険者ってのは随分とレベルが低いんだにゃ」


モブラー「てめぇ……言っちゃいけねぇ事を言ったな? 帝都の冒険者を侮られたら我慢できねぇ! 模擬戦が甘いってんなら、【決闘】だ!」


「決闘…?」


そういえば、ノアの冊子ガイドブックに【決闘】という制度についてちらっと書いてあったな。


冒険者同士は喧嘩が多いが、さすがに相手を殺すと問題が起きる。だが、【決闘】であれば、結果どちらかが死んでも責任は問われないらしい。


モブッチ「決闘だと? おいモブラー本気かよ?!」


モブラー「久々に…キレちまったぜ…。お前は本気で俺を怒らせた。どうしたチビネコ? さすがに決闘と聞いてビビったか?」


「…決闘、いいぞ、受けてやるにゃ」


モブ達「!」


「決闘にゃら、本気でっていいんだよにゃ? それなら相手してやってもいいにゃ」


モブラー「……死にてぇようだな」


「死ぬのはお前らにゃ」


モブス「おい、君! やめておけ! コイツラはこれでもBランクの冒険者だ! 殺されるぞ?」


モブラー「コイツラはこれでもって、随分な言いようだなおい? お前も戦るか?」


モブス「いや、俺は別に…悪い…」


「一応、警告はしておくにゃ。俺は戦るからには手加減はしないにゃ。くだらん事で命を落とすのは馬鹿らしい、そう思う奴はやめておけにゃ」


モブラー「舐めてんじゃねぇぞゴルァ! ってやるぜ!」


「やれやれ。愚かな奴らにゃ…」




  +  +  +  +




俺達は一度ギルドの受付カウンターに戻った。【決闘】の手続きをするためだ。決闘には双方合意の意思確認が必要らしい。


カウンターにノアが居たので声を掛ける。


「ノア、【決闘】の手続きをしたいにゃ」


ノア「あら猫ちゃん……って決闘?! いきなりどうしたの?」


モブラー「こいつに決闘を挑まれたんだよ」


「決闘を申し込んで来たのはお前らのほうにゃろ?」


ノア「ちょ、あなた達、こんな小さい猫ちゃん相手に! 何をしてるんですかー?!」


モブッチ「挑発してきたソイツが悪いんだぜ? 帝都の冒険者を馬鹿にされては黙っていられねぇ」


「別に挑発はしてないにゃ。勝手に絡んで来たのはお前らにゃ」


モブラー「それはてめえが嘘を~


モルメル「うるさいね! 何の騒ぎだい?! ってまたお前さんかい…。ガイドブックは読み終わったのかい?」


「バッチリにゃ。ガイドはノアに返しておいたにゃ」


モルメル「で、今度は何の騒ぎだい?」


ノア「それが、猫ちゃんがこの人達と決闘をするって言ってて…」


モルメル「決闘だって?!」


「ちゃんとガイド読んだから知ってるにゃ。ギルドには【決闘】という制度があるんにゃろ?」


モルメル「別にギルドの制度ってわけじゃなく、国の制度なんだけどね……てかあんた、決闘って意味分かってるのかい? 模擬戦じゃない、本気で殺し合うんだよ?」


「分かってるにゃ。模擬戦じゃなく【決闘】なら相手を殺しても問題ないっんにゃろ? それならやりやすいにゃ」


モルメル「問題ないわけじゃないんだけどね……まぁ大抵罪には問われないで終わるけど。ってか、ホントに分かってる? 相手じゃなくて自分が殺される可能性もあるんだよ?」


「もちろん分かってるにゃ」


モブッチ「そいつが悪いんだぜ! そいつはドラゴンを自分が狩ってきたなんて嘘を言ってな。タイラーは盗品なら買い取れないから正直に言えっていったんだよ。だがソイツがタイラーを脅迫して無理やり認めさせたんだ」


「別に無理やり認めさせたわけじゃないにゃ。俺の事を嘘つき呼ばわりしたから睨んだだけにゃ。俺は嘘なんかついてないにゃ」


モブラー「な? だからよ、俺達はソイツの嘘を暴いてやるために模擬戦を申し込んだんだよ。ギルドの職員を脅迫して盗品を買い取らせたらとしたら大問題だろう? だがソイツが模擬戦は受けない、決闘なら受けるって言いやがったんでな」


モブッチ「少し懲らしめて白状させるくらいのつもりだったのにな。挑発して決闘にしちまった。馬鹿な奴だ」


モルメル「アンタ達……本当に大丈夫かい? コイツ、見かけによらず強いんだよ…? ラルゴがやられちまったくらいだ」


モブラー「らしいな。だが、だからって一人ソロでドラゴンが狩れるほどの実力があるとは思えねぇ。ラルゴはやられたかもしれんが、アイツはしょせんCランク。俺達はBランクだ、それもAランク目前のな。こんなチビに負けるわけにはいかねぇんだよ」


ノア「あのー、でもー…? おかしくないですかー?」


モブラー「なにがだ?!」


ノア「獲物って、ドラゴンだって言ってましたよね?」


モブラー「ああ?! それがなんだってんだ?」


ノア「それ、どこから盗んで来たんですか? いくら帝都でも、ドラゴンの納品なんてする人居ないですよー? もしドラゴンが狩られたんだったら、帝都じゅうでニュースになってないとおかしいですよねー? それを盗んだりしたら、大騒ぎになってそうですけどー」


モブラー「それは……」


モブッチ「…きっとまだ発覚してないんだよ! そのうちニュースになるんじゃないか? 冒険者ギルドに苦情が入る前にはっきりさせたほうがいいんじゃ?」


モブラー「あるいは、何らかの理由で盗まれた事を隠しているか、だな」


ノア「そもそもー、ドラゴンを狩れるような冒険者なら、トップクラスの有名な人のはずですしー。そんな人から盗むって、盗む人も相当の実力がないとできないと思うんですけどー」


モブラー「いや、高ランク冒険者がドラゴンに挑んで相打ちになって死んで、獲物だけコイツが拾ってきたとかだろ!」


ノア「高ランクの冒険者が亡くなったらそれこそギルドに知らせが入るはずでは?」


モブッチ「それは…だからまだ発覚していないだけで…」


ノア「今は特に高ランクの冒険者で行方が分かってない人とか居ないですけどー? それに、拾ったのなら犯罪でもなんでもないのでー。問題ないのではー?」


モブラー「そっ…れは……まぁ…そうだが……」


モブッチ「だがコイツは自分で狩ったって嘘をついたんだ! それは問題じゃねぇのか?」


ノア「何か問題ありますー?」


モブッチ「っ! 虚偽報告だろ!!」


ノア「調査依頼の結果報告とかで嘘をつかれたら問題ですけどー、依頼を受けたわけでもないただの獲物の納品で報告義務はないと思いますけどー」


モブラー「だが、その冒険者の“評価査定”には影響あるんじゃないのか?」


モルメル「まぁ、ランクの査定の問題はあるかもしれないね。だけど、申告通りの実力があるかはちゃんと試験するから、嘘ついてランクアップはできないけどね」


モブラー「試験するまでもねー、俺達がその嘘を暴いてやるって言ってんだよ!」


「時間の無駄にゃ。さっさと終わらせるから手続きしてほしいにゃ。双方が合意していれば、どんな理由であろうと【決闘】はできるはずにゃ?」


ノア「そ、そうだけどー、大丈夫、猫ちゃん?」


「問題ないにゃ」


モブラー「俺達も問題ねぇ!」


モルメル「まぁ、本人たちがいいって言ってるならいいか。面倒だ、ノア、さっさと受理しておあげ」


モブラー「これでもう逃げられねぇぜ、分かってるんだろうな?」


「今のうちに遺言でも書いておくといいにゃ」



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