第92話 トカゲ(ドラゴン)納品するにゃ

小一時間掛けて、渡された資料ガイドブックをじっくり読んだ。冒険者のルールや心得についての記述もなかなか読み応えがあった。


ただ、俺には前世で読んだラノベの知識がある。ほぼ全て、俺が知っている異世界冒険者の知識と大きな違いはなかったので流し読みするだけで頭に入ったが、もし、何の予備知識もない人間だったら全部覚えるのに時間が掛かったと思う。


薬草と魔物辞典は流し読みしただけで熟読したわけではないが、瞬間映像記録してあるので、これは暇を見てゆっくり見させてもらおうと思う。






モルメルは出ていったきり戻ってこないが、読み終わったので会議室を出る。すると受付に居たノアと目があった。


ノア「あ、猫ちゃん。ゴブリンの討伐したんだって? 報酬が出てるよー」


「報酬?」


ノア「ゴブリンは三匹討伐で銅貨一枚貰えるんだよー」


「そう言えばそんな事言ってたにゃ」


ノア「猫ちゃんの納品したゴブリンの耳、数えたら百二十匹分もあったんだってー。だから小銀貨四枚だねー、よかったねー」



― ― ― ― ― ― ―

ちなみにこの世界の物価及び貨幣の価値だが、メイヴィスに聞きながら日本円に換算してみたところ、だいたい以下のような感じだと理解すればよさそうだ。


鉄貨:五十円

銅貨:百円

小銀貨:千円

大銀貨:五千円

小金貨:一万円

中金貨:十万円

大金貨:百万円(※四角い。インゴットに近い感じ。)

白金貨:一千万円


まぁザックリとおよその感じである。


紙幣はなく貨幣のみ。

全て貨幣には簡易的な偽造防止処置が魔法によって施されている。


注意点としては、庶民が金貨と言った時は小金貨、貴族が言った時は大金貨を差しているなど、感覚がズレている場合がある事。


それと、物価は日本よりかなり安いようだ。


庶民の生活必需品は日本の四分の一~五分の一程度じゃなかろうか。逆に言うと、生活必需品ではないものは、日本の十倍~百倍以上、時には千倍にもなりかねないのだ。


ちなみに酒は贅沢品ではなく生活必需品扱いらしい。庶民のストレス解消目的もあるのだろう。


物々交換も普通に行われている。また、物は直しながら長く使うのが普通で、修理屋が多数居て、壊れたら捨てて新品に買い替えると言う事は極力しない。(日本で言う江戸時代がそんな感じであったと授業で教わった気がする。)


【魔法契約】というものが存在するため、書類による資産の証明書(貸付証文や契約書)が取引に用いられる事もある。(このような証紙のやりとりが“紙幣”の原型になったと地球で聞いた事があるが、この世界では紙は貴重品なので、貴族や大商人が証紙でやり取りをする程度で、庶民が紙幣として活用される発想にはならないようだ。)


実際の物価は、例えば一番最低ランクの冒険者用の宿が素泊まり一泊で銅貨五枚程度。(ただし質も最低。まともな宿に泊まりたいなら一泊小銀貨二枚程度は必要である。)


カイトがよく食事していたムサロの街の青空亭の定食が一食銅貨五~十五枚程度(日本円で五百~千五百円くらい)だったが、実は青空亭は人気の店なので、この世界の飲食店としては少し高めのほうなのであった。(最低ランクの食事なら鉄貨一枚で一日分くらいの激不味いパンなら買える。)


月に小金貨五~十枚(五万円~十万円)程度稼げればこの世界の庶民としては中流の生活ができるだろう。

― ― ― ― ― ― ―



ノア「猫ちゃんお金使った事ある? 物々交換で暮らしてる感じの田舎の村から出てきた感じ?」


ゴブリンの討伐報酬が日本円でくらいくらいだったか考えていたら、金額が分からないと思われたらしい。


「それくらい分かるにゃ。まぁ金なんか必要がない、というか人間が居ないところから出てきたのは確かだけどにゃ」


ノア「そうなんだー遠くから来たんだねー」


「そうだにゃ。ところで、ランクアップ試験のためには魔物の素材の納品が必要だそうだにゃ。あ、これ返すにゃ」


モルメルに渡された冊子を返す。ノアが作ったと言っていたし、同じギルドの職員なんだからノアに返しても問題ないだろう。


ノア「あー読んでくれたんだー。どうだったー?」


「よく書けてるにゃ。分かりやすかったにゃ」


ノア「へへへーありがとー。頑張った甲斐があったにゃー」

ノア「あ、素材の納品は、さっきの納品カウンターで大丈夫だよー、にゃ。納品したものはギルドカードに記録されるから、特に何もしなくても大丈夫だにゃー」


「真似するにゃ。じゃ早速行くにゃ…」


   ・

   ・

   ・


納品担当職員タイラー「おお? さっきの猫か。冒険者の常識をちゃんと教わってきたか?」


「バッチリにゃ!」


タイラー「ほんとに大丈夫か?」


「大丈夫にゃ!」


タイラー「自信満々に言われると逆に不安になるんだがな? まぁいい。さっきのゴブリンの分は受け付けに伝えておいた。報酬貰いに行って来い。冒険者として初めての稼ぎって奴だ。まぁ微々たる金額だけどな」


「もう受け取ったにゃ」


タイラー「お、そうか。なら何の用だ? 俺も忙しいんだから納品するものがねぇ奴はさっさと稼ぎに行って来いや」


「あるにゃ」


タイラー「あん?」


「納品するモノがあるにゃ」


タイラー「ほう、何だ?」


「何が欲しいにゃ?」


タイラー「はぁ?! 舐めてんのか?」


「舐めてはいないにゃ。色々あるから何が欲しいか訊いているだけにゃ。とりあえず、トカゲ出すにゃ? ただここでは狭いにゃ、どこに出せばいいにゃ?」


タイラー「トカゲ? その程度はここでいい、出してみろ……って馬鹿野郎! そんなバカでかいの、こんな場所で出すんじゃねぇ!」


そう言われると思ってすぐにまた収納した。


タイラー「……そう言えばお前、【収納魔法】が使えるんだったな、油断したぜ…。分かった、裏の解体場で出せ」


タイラー(しかし…随分デカいトカゲだったな。なんかドラゴンだったような気もするが、気の所為か…?)







『ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…』


周囲の冒険者達が今のやり取りを見てざわめいていた……



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