第96話 初心冒険者ガイド

■カイト


俺はモルメルに会議室に案内された。


モルメル「ところでアンタ、字は読めるんだよね?」


「バッチリにゃ」


俺はこの世界の文字など知らないが、なぜか会話も読み書きも普通にできる。


どうやら言語理解というパッシブスキルが転移者/転生者には付与されるらしいとメイヴィスが説明してくれた。おかげでこの世界では言葉が通じないという苦労はないそうだ。


コミュニケーションに障害がないというのは良い事だな。


そう言えば、旧約聖書だったか? 地球でも昔は全員同じ言語を話していたなんて伝説があったっけ。確か、天に届く塔を建てようとして神の怒りに触れ、言語を分けられてしまったとか。


この世界も、神の怒りに触れたら言語理解スキルが取り上げられてしまったりするのだろうか…?


モルメル「じゃぁガイドブックこれを読んどきな。冒険者に登録する者に説明する内容は、大体コレに書いてあるから。ノアが作ったんだけど、確かに面倒が少なくていいね」


「こんなのがあるなら最初からくれれば良かったにゃ」


モルメル「あげないよ? 複製にも高い金が掛かるんだ。貧乏な初心冒険者だと払えないだろ? 貸し出しにするのも失くされたりとか色々問題があるからね。それに、これ、まだ未完成品なんだってさ。後で追加修正するって言ってたからね。まったく、どうせ作るなら完璧な書類作りなさいっての。あの子も悪い子じゃないんだけど、すぐ人を頼ってチェックさせようとするんだから…」


「チェック業務は上司の仕事じゃにゃいのか?」


モルメル「うっ、それはまぁそうなんだけど……面倒臭いんだよねぇ。私はチェックしなくても完璧な仕事をする部下が好きなんだよ!」


「お前……ダメな上司だにゃ」


モルメル「なんですって?!」


「それに、『面倒臭い』ってすぐ言う奴は良い仕事しないのは常識にゃ。そういう奴はすぐ手抜きするからにゃ」


モルメル「はぁ? 何言ってんだい。“面倒臭い” は仕事を効率化する原動力だよ? 手抜きじゃなくて効率化だよ。そういう意味で、アタシはで仕事ができる・・・女だよ」


「完璧な仕事をする部下が好きなんにゃろ? でも、部下が完璧だったら、お前は必要なくなるにゃ。優秀な上司なら、その部下を出世させてお前はクビにゃ」


モルメル「なんですって?!」


「まぁ俺にはどうでもいいにゃ。余計な事言ったにゃ。で、これを読めばいいんにゃな?」


モルメル「ああ? …ああ、読んどきな」


モルメル(確かに…部下が手柄を立てるとそうなる可能性はあるね。そんなの許せない、なんとかしなくちゃ…)


ブツブツ言いながらモルメルは部屋を出ていった。


残された俺はガイドブックをパラパラとめくって行く。俺には【瞬間映像記録】という魔法がある。写真を撮るように目に写った映像を瞬間的に記録して後で取り出す事ができるのだ。この魔法でガイドブックの全ページを記録しておけば、後でじっくり見直す事ができる。


ただ、記録しただけで内容はちゃんと読まないと理解できないので、記録が終わった後は、ガイドブックをちゃんと読んでみる。


ええっと、各ランクの昇格試験に挑戦するための条件は……? …あった。ちゃんと書いてあるな。Eランクに挑戦するには―――


一、ゴブリン十五体以上の討伐

一、薬草十五キログラムの納品

一、危険度Fランク以上の魔物の素材十五体以上の納品

一、危険度Eランク以上の魔物の素材の納品


ありゃ? 確かゴブリンは討伐は五十体以上ってモルメルは言ってたが。嘘……いや、十五と五十で間違えたか?


それにしても意外と厳しいな。俺には関係ないが、初心者がFからEに上がるのは意外と大変そうだ。


お、ランクの説明も前のほうにあるな。ちゃんと先頭から順番に読むか。


H:未成年者(依頼は街の中のみ)

G:特例者(未成年ではないがそれに準じる事情の有る者等。依頼は街の中のみ)

F:初心者

E:修行中

D:一人前

C:ベテラン

B:職人・凄腕

A:達人

S以上:人外~神級 


Eから上の等級になると、もう一人前の冒険者として扱われるから、それなりに実力が要求される、と。


なるほどにゃ。


おっと、最近は癖になって思考の中でも“にゃ”とか言うようになってしまった。まぁいいか。


読んでみると、渡されたガイドブックはなかなか細かく丁寧に書かれている。


モルメルはノアの事を間抜けだとか言っていたが、ガイドブックを見る限り、ノアは意外と几帳面なしっかりした性格に思えた。むしろ、モルメルのほうがかなりいい加減な気がする…。


…まぁどうでもいいか。


とりあえず、Eランクに挑戦するためには、まだ一番目の条件しかクリアしていない。


残りは


一、薬草十五キログラムの納品

一、危険度Fランク以上の魔物の素材十五体以上の納品

一、危険度Eランク以上の魔物の素材の納品


魔物の素材は亜空間収納に大量に入っているからそれを出せばいいか。問題は薬草だな。薬草なんて採ったことないからな。


お、薬草の辞典が別冊になっているにゃ。薬草の葉や花の形、採り方、保存の仕方まで書いてある。これは作るの大変だったんじゃないか?


魔物の辞典もそれとは別にある。なかなか細かく書いてある。現状でも百以上の魔物について解説が書いてある。俺が知らない魔物の事も結構載ってるにゃ。


『これは随時加筆・修正される予定』とただし書きがある。なるほど、未完成だって言ったのはこれの事なんじゃないか?


ノア……

……なかなかやるにゃ。


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