第56話 驕れる騎士は久しからず…
騎士達は俺の前に立ち塞がると、無言でジロジロと俺を見た。
「なんにゃ。何か用か?」
イマイチ人間の顔を覚えるのが苦手な(そもそも憶える気がない)俺だが、どうやらこの騎士達は、先程ジェムに暴力を振るっていた二人だと気づいた。
そう言えばフアナも新しく来た騎士達が獣人と見れば絡んで暴行を働くとか言っていたな。
騎士1「おい、何か用か? だってよ?」
騎士2「ああ? ああ、そうだよ、用がある。俺達は獣人を取り締まっているんでな」
「取り締まり…? 何の取り締まりにゃ? 俺は歩いていただけにゃ」
騎士2「ああそうだ、歩いていただけだな」
騎士1「知らんのか? 獣人は無闇に人間の街を歩き回ってはいけない事になっているんだ」
「にゃにゃにゃんと! …知らなかったにゃぁ!」
騎士2「知らなかったでは済まないんだよ!」
「にゃんてな、そんな嘘に騙されるわけないにゃ。お前達、この街の騎士じゃないにゃろ。他所の街で何勝手な事してるにゃ?」
騎士1「俺達はここの領主に頼まれて、この街の治安を正しに来たんだよ!」
「領主に? ガストにか?」
騎士1「!」
騎士2「…知ってるのか?」
「まぁにゃ。奴とは約束したからにゃ。お前達…ガストに俺には手を出すなって言われにゃかったか?」
確か
騎士1「はぁ? ああ、なんか言ってた気がするが、そもそもあんなお坊っちゃまの命令なんか聞くわけねぇだろ」
「お前バカにゃ? ついさっき自分でその坊っちゃんに頼まれて来たと言ってたにゃ」
騎士1「バカだと?! てめぇ、生意気な」
騎士2「……言い直そう。お坊ちゃまはエイケ侯爵に頼んだんだよ! そして俺達は、エイケ侯爵の命でここに来たんだ」
騎士1「そうだ、俺達はエイケ侯爵の騎士だからな、侯爵の命令でしか動かん。まだ正式に爵位も継いでない坊ちゃまの命令をいちいち聞いたりはしないんだよ」
騎士2「エイケ侯爵は、この街の獣人達を躾けてやれと仰せだ。エイケ流のやり方で…な!」
騎士2はそう言いながら、いきなり殴り掛かってきた。
もっとも騎士は 障壁を殴って痛い思いをしただけだが。
騎士2「っ痛ぅ…!」
しかも物理攻撃も反射してしまう障壁である。ダメージ倍増……騎士2は拳を骨折してしまったようだ。
騎士1「貴様、逆らうのか?!」
「はぁ? そっちが勝手に殴りかかってきて自爆しただけにゃろ」
騎士1「きさま、殺してやる…!」
騎士1は剣を抜いた。
「やれやれにゃ…」
+ + + +
◆領主邸、領主の執務室
ガストは苛ついていた。
エイケ侯爵に騎士を借りて街を取り戻したまでは良かったが…
…その騎士達に街を乗っ取られたような状態になっていたのだ。
街に来たエイケ侯爵第三騎士団の団長ツォズは、領主邸の執務室で、ガストを差し置き領主の椅子に座って指示を出している。
部下の騎士達も、ガストが何を言っても聞く耳を持たない。ツォズの指示でしか動かないのだ。
もちろんガストもツォズに抗議したが、ツォズはまったく取り合わない。それどころか、お前のような若造の言う事など聞けるかと言い放つ。
ツォズは子爵、ガストは伯爵家の当主である。子爵が伯爵家に対してその態度は普通ならありえない。
ガスト「たかが子爵風情が! 伯爵に逆らうのか?」
ツォズ「おいおい、爵位の話を持ち出すなら、お前はまだ爵位を正式に継いでいないだろうが? 言ってみれば平民と変わらん。俺は子爵だ、平民に下げる頭は持っとらんさ」
ガスト「……だが! いずれ近いうちに俺が爵位を継いで領主を引き継ぐ事になるのは分かっているだろう?! そうなった時困った事になるのではないか?」
ツォズ「別に? 俺が仕えているのはあくまでエイケ侯爵だからな。この街にも、エイケ侯爵の命で来て、侯爵の指示通りに運営しているだけだ。文句があるなら侯爵に言えよ、言えるならな。それとも、伯爵位を継いだらお前は侯爵の派閥から離反する気なのか?」
ガスト「…きっさま…」
ツォズ「なんだ? 貴族学園では目上の者に対する言葉遣いも教えていないのか? まだ学園も卒業していないような青二才が…偉そうにするもんじゃないぞ?」
ガストはキレそうだった。相手は騎士だ、剣の腕では敵わないだろう。だが、相手はたかが子爵。伯爵家の血筋であるガストの魔力には及ばないはずだ。ガストは、魔法を使えば戦い方次第では勝てるのではないかと一瞬考えたが…
その時、緊急の応援要請が入ってきた。
駆け込んできた伝令の騎士によると、街で獣人が暴れており、すでに騎士が四人殺られたという。
ツォズ「おかしいな。たかが獣人に遅れを取るような騎士は我が騎士団には居ないはずだが?」
伝令騎士「それは…その…、その獣人は思いのほか手強く…
ガスト「おい、待て! その獣人は先祖返りの猫獣人ではなかったか?! そいつに手をだしてはいかんと言っただろうが! そいつだけは触らず放置しておくんだ!」
ツォズ「ほう…なるほど。どうやらワッツローヴ伯爵を殺したという獣人のお出ましか」
ガスト「そうだ! 俺はその獣人とは敵対しないと約束したんだ!」
ツォズ「父親を殺されていながら、そんな約束をさせられていたのか? 獣人相手に? どうやらお前は領主になる器ではないようだな」
ガスト「そいつは獣人じゃない。希少な妖精族だと父は言っていた!」
ツォズ「妖精族? 童話に出てくる架空の種族だろうが。そんなモノを信じているとは…これだからお子ちゃまは…」
ガスト「お前のほうこそ現実を見ろ! 現に騎士が殺されているんだろうが!」
ツォズ「…ふん、おそらく相手が獣人と思って油断でもしたのだろう。確かに多少は強いのかも知れんが、我が騎士達が本気で掛かれば敵ではないわ!」
ガスト「あのシックスもそいつに殺されたんだぞ! 悪いことは言わん、手を出すな!」
ツォズ「……残念ながら、既に騎士が何名も殺されているのなら、もはや引き下がれん!」
ツォズ「応援の騎士を派遣しろ! 獣人だと油断せず、全力で掛かれと伝えろ」
伝令騎士「は!!」
ガスト「愚かな…。ツォズ子爵、後悔する事になるぞ。あれは油断しなければ勝てるなどという相手ではない…」
ツォズ「ふん、我が騎士団を舐めるな。まぁ座して待つがいい。お前の代わりに父親の仇を討ってやるわ」
そして―――
―――再び、伝令の騎士から応援で派遣された騎士が全員獣人に斃されたという報告が入るのにそれほど時間は掛からなかった。
ガスト「だから言ったではないか…」
呆れた顔をするガスト。
悔しそうな顔をするツォズ。
ガスト「その妖精族からは手を引け。これ以上被害を増やすな」
だがガストの言葉は逆効果であった。俺が行く! と叫びツォズは残った部下を全員集め、広場へ向かってしまったのだ。
そして、ガストの予想通り、ツォズも帰ってこなかった…。
状況を察したガストは焦った。あの猫獣人は、騎士を差し向けた父を殺しに乗り込んできた。
今度は俺を殺しに来るかも…?
俺は敵対しないと約束したのだ。それを破ったとなれば…
ガスト「…殺される」
ガストは即座に街を脱出する決断をしたのであった……。
(※実はカイトは今回の騎士達は勝手に動いていてガストの責任ではないと知っていたのだが…。)
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