第55話 猫だからラッキー◯◯◯ではない
ジェム「助けるなら! なんで俺の父さんを助けてくれなかったんだよ! お前は騎士達を倒せるほど強いんだろう!?」
「知らんにゃ」
フェム「獣人の救世主じゃなかったのかよ!」
「ちがうにゃ」
ジェム「……っ!」
フアナ「……」
「勘違いにゃ、クーデターの手伝いは断ったにゃ。それでも決行したのは獣人達の判断にゃ。結果も自己責任にゃ」
ジェム「お、大人達は、あんたは口では冷たいこと言ってたけど、きっと獣人を助けてくれるって言ってたのに」
「勝手に期待されても困るにゃ。俺は助けないと言ったにゃ」
ジェム「お、お前のせいだ!」
ジェムは立ち上がると走り出した。
フアナ「ちょ、ジェム! どこへ行くの?!」
ジェムは振り返って叫んだ。
ジェム「お前が! 獣人達に期待させて! 勘違いさせたから! 父さんは死んだんだ! 俺はお前を許さないぞ!」
フアナ「ジェム!!」
走り去っていくジェム。
フアナ「今はスラムから出ちゃダメだって言われてるのに…」
「ん? そうにゃのか?」
フアナ「はい、新しく来た騎士達の取り締まりが酷くて……彼らは獣人と見れば問答無用で暴力をふるうのです…それで殺されてしまった者も出ていて…」
「ああ、さっきのジェムも騎士に蹴られまくってたにゃ」
フアナ「そんな…! あの子を止めなきゃ…」
だが、幼い子供達がフアナの服を掴んでフアナを見上げている。それを振り払ってまで行く事はフアナにはできないようだ。
「やめておくにゃ。そんな状態ならなおさら、スラムから出ないほうがいいにゃ」
フアナ「でも…そうだ、お願いです! どうかあの子を連れ戻して下さいませんか?!」
「断るにゃ。というか無理にゃ。俺は嫌われてる、恨まれているみたいだからにゃ。俺の言う事なんか聞かないにゃ」
「だいたい、無理に連れ戻しても、また出ていくだけなんじゃにゃいのか?」
フアナ「…そうかも知れませんが……」
フアナの後ろに隠れていた獣人の幼児の一人が恐る恐る出てきて俺の服を掴み、見上げながら言った。
『ジェムを助けて?』
「なんで疑問形にゃ」
「…はぁ…しょうがにゃい。まぁ、もし見掛けたら、連れてくるだけは連れてきてやるにゃ…」
「でも一度だけにゃ! ソレ以上は知らんにゃ」
フアナ「ありがとうございます! きっと、説得してみせます…!」
+ + + +
「俺もお人好しにゃ。というか、中途半端な事してるにゃ…。助けるなら助ける、助けないなら何があろうが無視を徹底したほうが良いよにゃぁ…」
俺は街の中を歩きながら先程の少年・ジェムの魔力の気配を探った。すると程なくして少年が市場の八百屋から野菜を盗もうとしてるのを見つけた。
ジェムが野菜を盗み、走って逃げる。
八百屋の主人(人間)は気づいているようだが、あえて気づかないフリをしているようであった。
ジェムはしばらく走り、建物の影に入ると、盗んだ野菜を齧り始めた。
「見つけたにゃ」
ジェム「!!」
逃げようとするジェム。だがその首根っこを掴んで逃さない。そして俺はジェムとともに再びスラムに転移する。
「連れてきたにゃ」
俺は、先程の女性、フアナの魔力を辿って居場所に転移したのだが…
…そこは風呂場であった。フアナと幼い子供達が何人か、入浴中だったのだ。
(風呂はスラムの子供達が臭かったので俺が金を出して商業ギルドに作らせた。ただし、スラムでは夜に明かりはないので、明るい内に風呂に入るようになったのだ。)
幼児「あ! ジェムだー!」
フアナ「ジェム?!」
ジェム「離せよ! ってフアナ?!」
ジェムが裸のフアナを見て真っ赤になる。
ジェムが逃げようとするが、俺が首根っこを掴んで話さない。
ジェム「おい、離せって! マズイだろ! 女湯だぞ?!」
「別に? 俺は猫だからにゃ」
俺は
「お前だって子供だ、気にするにゃ」
ジェム「気にするっての! 子供扱いするな!」
だが、そこにフアナが飛びついてきた。
フアナ「ジェム!」
ジェムを抱きしめて離さないフアナ。もちろん全裸のままである。
ジェム「フフフフフフアナ?! 離せって! 恥ずかしくないのかよ!」
フアナ「離さない! だって離したら、また出て行ってしまうでしょ! だから離さない!」
「言った通り、次はもう知らんにゃ。逃さないようにするにゃ」
フアナ「ありがとうございます…離しません!」
ジェム「離せって~!」
「まぁ頑張って説得するにゃ」
俺はスラムを後にし、街の繁華街に戻った。
【青空亭】で飯を食って帰るつもりであったのだが…
【青空亭】はちょうど午後の休憩時間に入ってしまっていた。いつもは昼時に来ていたのだが、今日は少し遅くなってしまったのでランチの営業時間に間に合わなかったのである。
もう少し待てば夜の夕方からの営業が開始されるはずなので、少しブラブラ散歩して待つ事にしたのだが……
街を巡回中の騎士二人と目があった。
ジェムを蹴っていた、あの騎士達だ。
騎士はニヤリと口角を上げると、俺に近づいて来た。
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