31.『夢オチは動かなくもない』undoodnuさん

「痺れた一文」

最近、部屋を暗くした方が眠りやすくなることを知りました。(『夢オチは動かなくもない』undoodnuさん)


 薄明りの家具が何もないワンルームで、掃き出し窓ではなく腰付窓が一方向にだけあるフローリングの部屋の真ん中に、じつはショッキングピンク色のシンプルな丸いプラスチック製の傘がついたLED電球の照明器具(調光可能)がぶら下がっている。足を折りたためる座卓の天板は昭和の象印やタイガーのポットみたいな、今でいえばマリメッコ柄で、小さなガラスのコップとペットボトル(それはサイダーまたは爽健美茶だったかもしれない)とカルビー関係が、偶然にも黄金律の構図で散乱している。

 その下に14インチのラップトップがありそれは仕事用のもの。部屋の一角を占めているのは、座椅子タイプのゲーミングチェアと40万円超のデスクトップPC。そして50インチのディスプレーだったりする。対角線上ではダンベルが、時折、奇妙な影を投げかける部屋で、いつ、なぜカーテンを閉めたのかはもう忘れてしまった。(とここまでは、読者のわたしがあることないこと勝手に想像した部屋だ)


「最近、部屋を暗くした方が眠りやすくなることを知りました。」

 は、ひじょうに落ち着かない気づきである。

 このエッセーの印象は「不確かさ」である。部分部分は詳述されているのだが、全体像がぼんやりと薄暗く、室内の白い壁に、向かい側の窓を滴る雨滴のシルエットが常に映し出されているような、静かで不思議で不穏で曖昧で不審で、それでいて安心できる空間に包み込まれているような感覚に陥るのだ。


 このイメージを敷衍し、それに飛びつくとすればこれは、子宮内の記憶に似ている。

 無論、そんな記憶をわたしは持たないので、事後、そのようなものがあったとすれば、それはこのような感覚を催すのではなかろうか、という着想を無責任に記してみただけのことである。


『胎児よ、胎児よ、何故踊る 母親の心がわかって おそろしいのか』(『ドグラ・マグラ』)

 そう、あの『…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。』という音が鳴り続けている部屋の印象そのものだ。そういえば、『ドグラ・マグラ』のライトモチーフの一つに「胎児の夢」があったと記憶している。


 当たっているか、当たっていないか、は分からないし、当てるべきとも思わないのだが、これはしかし、あまりにも個人的な趣味嗜好に偏りすぎたかもしれない。

 わたしは理解をゴールとしない主義なので、こんな具合に夢と現の間に留まっていられれば幸せだ。

 とこれが「痺れた一文」の理由である。

以上





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