30.『隅田公園の喫煙所』10101298さん
「痺れた一文」
毎朝、台東区隅田公園の喫煙所の吸殻を回収してるのですが、いつも灰皿に使用済みの浣腸が捨ててあります。だいたい2つ。(『隅田公園の喫煙所』10101298さん)
「浣腸をさす。二本もさす。」
というネタをボキャブラ天国で見た。とても好きなネタだ。10101298さんはわたしが敬愛している方のうちの一人である。なにしろ、生き様が文豪であり、まさに全身小説家なのである。
エッセーは、具体的で個人的であればあるほど抽象的で普遍的になりうる。わたしはフィクションかノンフィクションかという区分に全く関心を持たない反面、それを読む体験がエキサイティングか否かに、ひじょうにこだわる性癖をもつ読者である。
今回、「痺れた一文」として挙げる文としてわたしが定めたのは、ワンセンテンスにすること。つまり、句点という区切りで切り取るというものだったのだが、このお話に関しては、ツーセンテンスにまたがることを自分に赦した。
「だいたい2つ。」このダメ押しはまさに、二本目の浣腸のように重要だ。しかも二つとも「灰皿に」である。
これこそ『ミステリと言う勿れ』の整クンや、『氷菓』の折木クンにぜひ解いてもらいたい謎だ。「夏休み期間見当たらなかった」という重大は手がかりも書かかれてあることでもあるし。
ともかく「この時代だからチャットGPTとかに「隅田公園の浣腸なに?」って聞けば案外あっさり真相に近づいちゃうかもしれないですけど。」という冷静と情熱の間の温度感の中で、「もうしばらく想像を膨らませてニヨニヨしてます。」という、これはつまり、「大人の愉しみ」なのである。
とはいえ、
使用済み浣腸2つ灰皿に毎朝捨ててある公園だ
と短歌にしてみたところで解決に近づくわけもなく、トイレの個室内ではなく、おそらくは公園ベンチ付近の灰皿内というところに、何等かの偽装工作の疑いも生じる。公園ではなくどこか他のトイレが現場、とかそういうことだ。
ところでこのエッセーは非常に読みやすい。冒頭の「なんでわたしが」から「今回は今月の一番の、ゴミに話。」までは落語でいうところの「マクラ」に相当する。わたしのスマホを縦位置にして読むとき、この部分がちょうど一画面に収まってとてもまとまりがいい。これも計算か、とも思ったが、倍率は好き勝手に変えられるので、これはたまたまのことだと考え直した。そのうえで、この中にある「舛田路山くん」の「1000億字を超す」話や、「アイライン大失敗して顔面敗訴した」「1文字も書きたくない」話や、その他のゴミの話なども、いつか読めたらいいと思う。10101298さんのお話には、いつか読みたいエピソードのチョイ出しがとても多くて目が離せない。
とにかくキレのある文体なのだ。キレがあってやさしい文体なのだ。自然なお通じ的文体なのだ。
と、いった感想が尽きないことが「痺れた一文」の理由である。
以上
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