21.『シン・呼吸』UBEBEさん
「痺れた一文」
【観客の笑い声】HAHAHAHAHAHA(『シン・呼吸』UBEBEさん)
起承転結のきちんとした構造を、アメリカンホームコメディでコテコテにコーティングしながら、クドさはなく、ひじょうに軽快な仕上がりとなっているのは、空気清浄機の影響下、というカッコにくくられた状況を客観的に楽しんでいるからだろう。
「花粉が飛ぶ」空気。「空気清浄機を買ったら負けという」空気。「高い買い物をしたのだから効かないことを認めたくない」空気。そして「笑い」もまた「空気」がひじょうに重要な役割を果たす。このお話は「空気」に関する試論である。
食べ物が変われば体格が変わるように、吸っている空気が変われば当然身体やメンタルにも変化が生じることだろう。空気清浄機に星条旗が混入する事態そのものが、ひじょうにアメリカンジョーク的だ。そこへアメリカンホームコメディーならではの姿なきオーディエンスの笑い声が導入されるのだが、目に見えないという点と、雰囲気という点で非常に空気的である。
お約束として、これらがそろえばアメリカンだということを理解できる、というのは考えてみればおもしろいことだ。タカアンドトシの「欧米か」や、ハンバーグ師匠や、ダンディー坂野、などはそのラインにあり、これが「パロディー」であることを知らない者はいないだろう。いつ、どのドラマでわれわれはこの話法に慣れ親しんだのだろう。そしてこの方式はアメリカではずっと続いているのだろうか。「ビッグバンセオリー」などには笑い声があったと記憶しているが、アメリカの典型として継承していただきたいものである。
感情表現を大げさにする行為はカタルシスを感じさせてくれる。一方、自分で「芝居がかってるな」と思うくらいオーバー表現することができるということは、逆に客観視できているということにもなる。実際のアメリカ人がわざとオーバーアクトなのかどうかはわからないが、お話の中の夫婦や近隣住民にとっては、真に自己解放につながっているように思う。もしくは、空気「星条旗」の影響が町内に広がりつつあるということなのかもしれないが。
文化的に侵略する、という見方をすればこの空気「星条旗」がもたらす中毒性は親アメリカ派を組織する礎としても使えそうではある。読んでいて、とても楽しそうな生活だと感じた。
ともあれ、お話の中に四回しかでてこない文であるにもかからわず、お話全体の世界観を完璧に共有できるワードであることが「痺れた一文」の理由である。
以上
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