19.『see stars』新出既出

「痺れた一文」

 そこから『へびつかい座』がよく見える(『see stars』新出既出)


 「月 日」で区切られた28の節からなる断章を連ねた形式である。それぞれの節の関係性は希薄であり、STARという単語で適当に検索した結果を恣意的に羅列してあるだけのように見える。

 しかし登場する事物を並べてみると、「星」→「スターサファイア」→「命の星」、「星」→「星の王子様」→「砂漠」並びに「カレー」、「星」→「タロットカード」、「運命」、「星座」→「ギリシア神話」など、連想の幅はかなり制限されていることがわかる。

 また数々のSTARを含む文字によって示される「商品」にしても、主人公のいる環境下に存在する物品の記録として読めば、そこに隔離病棟のような状況が彷彿してくるようである。

 無機質な壁面に囲まれ、会話をする相手は看護婦や医師、面会に訪れた家族のみで、時折作業療法として土いじりなどを行う主人公が、その単調さを紛らわせる手段は「検索」しかないのではあるまいか。

 こういう場合「検索」ではなく「空想」や「想像」がでてきがちなところであるが、このお話に自らを広々とした時空へ連れ出すような想像力は皆無である。目の前にあることや、記憶を発見、発掘しては検索し、日々それを書き連ねることくらいしかできないのだ。

 また、最後から二番目の節にある「暦を削って彫り直す」や「ベツレヘムの星」という記述を読むと、どうも12月であるように思われ、さらに「キリスト教」が焦点に入ってくる。すると「新しい約束は発掘できず」は、「新約(聖書)」がない、ifの世界であると想像できなくもない。では主人公はマリアから誕生できなかったイエス=キリストなのか。

『1わたしたちの聞いたことを、誰が信じえようか。

主は御腕の力を誰に示されたことがあろうか。

2乾いた地に埋もれた根から生え出た若枝のように

この人は主の前に育った。

見るべき面影はなく

輝かしい風格も、好ましい容姿もない。

3彼は軽蔑され、人々に見捨てられ

多くの痛みを負い、病を知っている。

彼はわたしたちに顔を隠し

わたしたちは彼を軽蔑し、無視していた。

4彼が担ったのはわたしたちの病

彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに

わたしたちは思っていた

神の手にかかり、打たれたから

彼は苦しんでいるのだ、と。』

(新共同訳 聖書 イザヤ53章1〜4節)


こうした全てを「へびつかい座」が緩く包括している。もっとも巨大でありながら最も知名度が低いこと。「へび使い座」を含む13星座占い(へび使い座は11月30日~12月17日)が1995年から1997年ほどの短期だけ爆発的に流行ったが、その後急速に廃れていったこと。「へびつかい」のモデルが死者を蘇らせた医師「アスクレピオス」であること。

 そして何よりも日本でこの星座は夏の星座であること。だから12月の窓からは見えるはずのない星座であったということ。


この断章をとりまとめるものであることを端的に示していることが「痺れた一文」の理由である。

以上

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