15.『きみを照らす光るものすべて』まゆみ@さん
型にはまった幸せよりも
君にはまった幸せ探せ(『きみを照らす光るものすべて』まゆみ@さん)
六枚の写真とそれらに添えられた短文で構成された作品。
選んだ一文はその二枚目のもので、クッキーの型の上に☆型のクッキーがのっている写真に添えられている。
まず「タイトル」の文に惹かれた。
この文は六枚目の完成した星型クッキーのはいった瓶を上から写した写真に添えられたものだ。
「きみ」は、写真に写りこんでいるマスコットであり、そのマスコットが見出した「きみ」であり、読者が想定する「きみ」であり、作者からみたわれわれ読者のことでもあるだろう。
「きみを」「照らす」「光るもの」「すべて」という四つの文節で考えるとき、「照らすもの」ではなく「光るもの」であることの意味が迫ってくる。
「照らす」のだからそれは光なのだろうと、まず考える。だがあえて光る「もの」と強調しているところが、「脚光」というような抽象的なものではなく、物質として「きみ」を照らしてくれる存在があるということを伝えているのだろうと思い、そこから「光るものすべて」が「きみを照らす」のだという倒置法的意味にたどり着く。
可視的存在であるためには、光に照らされれなければならない。それは太陽光であっても照明であってもよいが、抽象的な「脚光」や「注目」などは、そのように照らされて可視化された結果に対する二次的なものでしかなく、つまりは「きみを照らす光るものすべて」には含まれない、ということを、このタイトルから思った。
型にはまった幸せよりも
君にはまった幸せ探せ
「幸せ」に定義はないが「幸せ」という言葉をきくとわたしはいつも元モーニング娘。の亀井絵里さんの言葉を思い返す。
「幸せになりたい幸せになりたいってずっと思ってると、幸せになりたいってだけで終わっちゃうんです。幸せだなぁって思ってるとずっと幸せのまま過ぎていくんです。」
型にはまった幸せよりも
君にはまった幸せ探せ
この文が添えられた写真をあらためて見てみると、たくさん映りこんでいるクッキー型の中に、完成品のクッキーの星型がないことに気づいた。動物やハートのクッキー型は、「星」とは違って「光るもの」ではなく、「型にはまった幸せ」を象徴しているのかもしれない。
また、その後に出てくる写真には、星型のクッキーを入れた瓶の隣に、わずかにのこった黄色い金平糖が入っている瓶が映り込んでいたりする。金平糖は、星型と認識できる存在だと思う。
このような六枚の写真を注意深く読み解くことで、作品はさらに深みを増していくに違いない。
君にはまった幸せ探せ
この文でだけ「君」という漢字表記であることは、リフレインの型を明確にする効果と、明確な呼びかけであることを強調する効果を生んでいる。
最初に読んだときは「君にはまった」という文脈で、いわゆる「沼」にはまってしまったことの幸せ、のことを思った。登場するマスコットを推す、という意味合いをここに読み取ることもあながち間違いではないような気がしている。
詩の言葉はさまざまな意味を重ね合わせて、意味以外のものを伝えられるように組成されるものだからだ。
「沼」にはまるのは「苦しい」ことも多いし、なんではまっちゃったんだろうと、半ば自嘲気味に後悔することもある。
人は好きだから好きになるのではなく、好きになってから好きなところを探す生き物だ、ということをこの文から感じた。
そしてまた、人からのお仕着せではない、「きみ(自分)を照らす光るものすべて」の中にあることに幸せがあるのだ、いうメッセージを感じた。
これらのことを感じさせてくれたことが「痺れた一文」の理由である。
以上
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