14.『女子恒星JK-1 8』たらはかにさん
自分が女子恒星になったという事実を受け入れる事は、昨晩から冷蔵庫で解凍していた最高級冷凍イクラを細い糸でつなげてイクラネックレスにされてしまった事くらい受け入れることが出来ない。((『女子恒星JK-1 8』たらはかにさん))
村上春樹と糸井重里の『夢で会えたら』という掌編集の中の、村上春樹の作品の一つに、玄関マットになってしまったKという男の話が、たしかあった。無論カフカ『変身』のパロディで、荒唐無稽な変身譚となると、わたしはまずこの二作品を思い浮かべる。
それらに、メタレベルを組み込むことにより、このお話は小説としてひじょうに豊かになった。ジャンルも複層的であり、そのうえ、作者の創作風景を知ることができるというサービスまで享受できる。さらに最終的には読者を巻き込むことまで達成しているのだから、もはや超絶技巧だ。
また常にエンターテーメント性を重視している点も素晴らしい。
冗舌体の文体を維持し続けることで多種多様な分野とレベルをシームレスに展開し、一行後に読者はどこに連れていかれるのかわからないジェットコースター的スリルを味合わせてくれる。
こうした構造の作風を持つ小説家として、後藤明生を召喚することはわたしの中では自然なことであり、それはつまり、小説の始祖であるローレンス・スターンに連なる正統的系譜だということだ。(異論は認める)
「恒星になって分かった事がある。」などという文章が成立するお話を、考えたことがある人がどのくらいあるだろう。作者はそれを徹底的に考え、シミュレーションをし、このお話に必要な要素を的確に抽出した。
時間である。
「女子恒星」となり、永遠とも思われる時間を獲得した主人公にとって、時間そのものが苦痛でありまた救いとなるのだ。
恒星になってからも人間としての意識を保ちつづけ、かつ恒星として存在することによって変化する意識のゆらぎを繊細に掬いとるモノローグに、ただただ感心するばかりだ。
恒星になったことを受け入れられなかった長い時間があっただろう。その間にあらゆる後ろ向きの感情を放ち尽くし、蒸発させ尽くしてなお、「幼少期から夢見ていたショートショート作歌になるという夢」を失わなかったことに感動する。
そして下世話に通じた神こと、デウスエクスマキナとしての「ベリ」ちゃんが登場し、現実世界へのコミット兼、神話要素までもクリアすると、もはや忘れかけていた、というかすっかり受け入れていた「女子恒星」に変身したワケが、明らかにされるのである。この構成の巧みさが憎い。
次から次へと繰り出される言葉をたどっていくだけで、これほど豊かな経験をさせてくれるということを示していることが「痺れた一文」の理由である。
以上
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