13.『カブトホシ』むうさん

「ツキムラ、やつらが食ってるのは土じゃない。星なんだ」(『カブトホシ』むうさん)


 「痺れた一文」という括りで感想文を書きたいと思ったきっかけの一文。とにかくかっこいい。


 パニックものの展開「日常に小さな変化が生ずる」→「その変化に違和感を覚える」→「さらなる変化」→「新たな知見」→「カタストロフへの気づき」→「抵抗」→「解決」→「気になるエンディング」の中で、わたしのカタルシスは「カタストロフへの気づき」にある。


 「土」=「星」という見識には「天才」を必要とする。われわれは「地球」が「土」の塊だということを意識せず暮らしている。地動説。地球が丸いこと。地殻は薄くマントルに浮かんでいるということなどを、普段意識することはない。


 ずいぶんまえに「宇宙船地球号」だとか「ガイア論」だとかいう思想が流行った。地球という閉鎖環境に閉じ込められた人類を「重力に魂を引かれた者」とよんだのはシャー=アズナブルだった。

 地球を惑星の一つと認識しづらいのは、われわれが他の選択肢をもたないからだと思う。我々は相対的にしか物事を把握できない。だから、生命体が存在する別の惑星と何等かの交渉をもって初めて「地球」=「惑星」を実感できる。それは、「自国」が「他国」との関係性においてはじめて国家として自覚されるのと似ている。国家とは常に他国との戦争状態に置かれることによってのみ可視化する。全ての存在は互いの脅威としてのみある。


 「土」=「地球」という本質にたどり着くためには、地球を相対化するユニバーサルな視点が不可欠である。それは「夢」の中で「夢」であることを認めるのに近い。


 さて、「カブトホシ」は、ファンシーさによって地球に持ち込まれ、爆発的に繁殖する。媒介者に好ましい性質を備えるという戦略をとる生物は枚挙にいとまがない。トキソプラズマと猫。ロイコクロリディウムとかたつむり。カマキリとハリガネ虫などの寄生虫や、食虫植物の擬態などを例にあげるまでもなく、タンポポが風に運ばれやすいよう綿毛を備えることも、孔雀の雄が羽根を広げることも、種の存続のための必然性という点では同じことである。

 ところでまた、人間は「かわいい」に抗えない性質をもっている。「かわいい」を庇護したいというのは本能なのだろうが、昨今ではこの「かわいい」の範囲が広がり、庇護欲は所有欲として肥大化しつつあるが、それが何を目的とするのかは不明である。

 「貨幣等」に対する欲は最終的には「危機回避願望」で「肥満」のメカニズムに類似すると思うが、「かわいい」はそれとは異なる。われわれは「かわいい」に支配され「かわいい」の下僕となることを厭わない。「かわいい」に対しては「今」があるだけで「未来」という視点は失われ、空間的にも非常に近視的にさせる。「かわいい」は全体性を奪い閉鎖化させる。「かわいい」は小さな連帯により大きな分断を招く動機となるおそろしいものなのだ。もしかしたら、「多様性」を認める素地の未発達な人類が「かわいい」を拡大させることで「他者」を丸呑みし、ますます「排他的」かつ「自己防衛的」になっているのではないかと、そんなことを思ったりする。


 ともあれ、カブトホシが数々の星を滅亡させてきたことが判明し、駆除が急務となるのだが、その方法のことごとくが外来生物持ち込みというところに、このお話のテーマが明確に示されている。バラスト水の問題も含めて、広義な意味で「エコロジー」を再認識させてくれたことと、ともかくかっこいいところが「痺れた一文」の理由である。

以上

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