12.『ベビースター・ブルー』創樹さん

測定値銀河齢は約2億歳で、人間に換算すると2歳児らしい。(『ベビースター・ブルー』創樹さん)


 とにかくテンポが心地よい。それは会話の流暢さと、地の文における漢字とひらがなの比率によるものと思う。

 ギューッと詰め込んでパッと開放される快感。笑いとは「緊張」と「緩和」だという話を聞いたことがあるが、人の心をつかむための間合いを、作者は知り尽くしているのだ。

 日本語でSFを描くメリットは創作熟語の自由度にあるのではないかと常々考えていた。カタカナも異化に貢献できるが、あまり長くなると可読性が落ちる。その点、漢字であればわれわれは、ほとんど「絵」として認識できる。

「ブルーグレーの光るビー玉が、多層シリカガラス越しにふてくされた斜線軌道で旋回した。」

「高光速孵宙インキュベーター『星霜ポッド』の極小超新星爆発を経て一昨日誕生。」

 など、作者が吟味を重ねて用いる語彙の全てに詩を感じる。このお話は、主人公視点の一人称が採用されているので地文もモノログなのだが、「会話」と「地文」の切り替えが小気味よく、まったく苦労することなく読者は、実は膨大な世界観情報をインプットされていき、読めば読むほどはまっていく。


 読んでいて「ユニバース」という言葉が頭に浮かんで離れなかった。とくに「ユニ」という接頭語が気になったのだ。作中に「ユニバース」という言葉は出てこないのでこれはわたしが勝手に気になっただけのことだ。

 「ユニ」はラテン語。因みに同じような「一」をあらわす接頭語の「モノ」はギリシア語だ。ただ「ユニ」には多種多様なものを一つに巻き込む、という意味合いがあるらしく、「ユニ」+「バース」で一つの回転、という意味なのだとか。ユニバーシテイーは総合学科なのにユニがつくのは、複数の学科が一つにまとまっているからだという説明があって、なんとなくわかった気になる。

 ともあれ、このお話にはこの「ユニバース」な感覚をとても強く感じた。「新星児」を育てる過程はわたしたちが通ってきた過程であり、星もわたしたちも同じ宇宙に息づく存在体なのだということが、わたしたちの住む世界と地続きというか同じ空の下にある感覚で心に沁みとおる。それをリアリティと呼ぶのならば、このお話はSFという範疇を意識せずに共感できる超SFである。友達の友達から先月聞いた話、とでもいうような身近さでJAXAが現れることさえも自然に受け入れられる。


 この読後感をかみしめた後あらためて、そのために費やした文字数の少なさに驚愕する。豊かな読書を満喫できたと実感している。


マジックリアリズム的文体を示していると感じたことが「痺れた一文」の理由である。以上


 



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