11.『おでん★スター』10101298さん

その遺伝子組み換えダイコンのクローンとして生み出された俺は、こんな訳の分からない根菜に生まれちまった。(『おでん★スター』10101298さん)


 登場人物の全てがチャーミング。おでんの具材そのままの姿で、ありありと、のびのびと、お話しの中に息づいている。全てに無理がなく、キャラクター達の感情がダイレクトに流入してくる。

 冷静になってよく考えてみれば、このお話に「無理がない」わけはない。おでんの具で構成された劇団。スターのクローンを喰ってその才能を獲得できるという食堂。そのカニバリズム。瓶ビールという拘り。そこに出入りする多くのスターたちの歪んだ欲望。遺伝子組み換えに対する警鐘とその悲劇。自然に入り込むダジャレ。

だが、全てが自然だ。これはもう、超短編の『虚構船団(筒井康隆)』である。作者はただものではない。


その遺伝子組み換えダイコンのクローンとして生み出された俺は、こんな訳の分からない根菜に生まれちまった。


 臓器移植のために遺伝子操作した豚を作るのに成功したというニュースを最近見た。わたしにはそれは悍ましいことに思える。兄弟姉妹や双子のどちらかがどちらかを移植用スペアとして育てるというドラマの設定や、何かの話で身体のパーツのスペアを用意してくれる会社と契約し、事故のたびに手や指や目などを提供してもらっていた人が、パーツのストックについて尋ねると、会社担当者いわく「各パーツのみを製造する技術はありません」と答えた話など、を思い出す。

 生きるために他の命を殺さねばならないことに対する倫理観からではなく、単に資源問題解消のために人造肉を作る技術も進んでいるらしく、経済活動のための大量消費を存続させるために命を奪うという行為を減らせるのならば、それはよいことのように思える。そういえば、KFCが遺伝子操作によって足が6本ある鶏を製造して、原材料コストを下げているという現代民話もあったと記憶している。


 暗闇の奥から現れた野菜は、自分のことを「訳の分からない根菜」といいながら、「シロカブ」であり英語で「ターニップだ!」と名乗る。「白カブ」ならば、日本では古来から「すずな」とも呼ばれる由緒正しい根菜である。しかし、自分はジャガイモの遺伝子を食ったダイコンから作られた「ニセモノ」だ。にもかかわらず、そのような伝統的な野菜にそっくりであることもまた、一層恨みを募らせる原因となっているのではあるまいか。

 だから、ジャガイモを食ったダイコンを食うことによって、復讐を果たすことはもちろん、自らのダイコン要素が強くなって、より本当の「白カブ」に近づけるのではないかと、そんな計算もあったかもしれない。


 それにしても「スター食堂」においては、客はみんなクローンをつくられてそれがメニューになっていくシステムのようだ。際限なく繰り返される遺伝子操作が行きつくところはどんなモンスターなのだろう。

 おでん小屋のスターたちがカタカナ表記なのは、みんな「ニセモノ」だということを表していたのかとも思われる。


 そしてまた、このお話は、じゃがいも、大根、シロカブ、という三代にまたがる因業譚をタマゴが語るという、大河ドラマ的相貌も備えている。

 さらに食うものが食われるものになる話を「ポトフ」で締めくくることで、おでんが食べものではない「パラレルワールド」観をも徹底させているのである。


 余談だが、BMW330ciカブリオレE46型の通称が「シロカブ」というらしい。マニア好みの人気車種だそうだ。


ともあれ、話全体に通底する実存的怒りを爆発させたことが、「痺れた一文」の理由である。

以上

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