6.『日々のラジオ』すみれさん

痺れた一文

午前一時。星は静か。(一 オレンジ色の流れ星「おやすみの前に」)


 午前零時を回ると風が変わる。そして空気が入れ替わることは、公園などで夜更かしをしたことのある人ならばみんな知っていることだろう。一月の冷たい雨は、あと一時間で雪になるという。けれど、雨よりも雪のほうが暖かいような気がする。想いを込められるような気がする。

 いや。「星は静か」ということは、雨は今は止んでいるのだろう。想い出を語る感情もまた、凪いでいるのだろう。

 「午前一時。星は静か。」

この自由律句としても素敵な一文の静謐さが、このお話にぴったりだと思ったのが、「痺れた一文」の理由だ。


痺れた一文

もっとしたくなって、くくりつけられる場所を探した。(二 真っ白な流れ星「あなたの隣で」)


 たたみかけるように三行続く冒頭の文章の、最後の一文を選択した。今、読み直すまで、この三行は読点で区切られた一文だと記憶違いをしていた。だが、この性急さは句点で切れるような生半可なものではないだろう。

 本人はごく当たり前の考え方をしており、ごく当たり前な行為を行っていると思い込んでおり、「死」へ向かっているということすら意識していない。まさに「死」に魅入られた状態にある。

 手で絞めるだけでは弱い。なら、コードをどこかにに括りつけて思い切り締めればいいんじゃないか。そうだ、そうだよね。というノリが続くのである。悲壮感も現実感もない。むしろ、そういう感情から逃れるための強制ブログラムなのである。

 「もっとしたくなって、くくりつけられる場所を探した。」

 の描写に、おそろしいほどのリアリティーを感じたのが、「痺れた一文」の理由だ。


痺れた一文

星空を眺めながら、縁側。(三 黄色の流れ星「むすんで、むすんで」)


 この一文も自由律句のように迫ってきた。縁側で星を眺めている「じいちゃん」は、星空や流れ星を見ながら何を思っていたのだろうかと考える。

 「ケツエン」のない孫と暮らすという家庭の事情は、おそらく影響しているのだろう。この話には「じいちゃん」以外の家族が出てこない。

 星は孤独だろうか。流れ星は自由だろうか。星には運命という暗喩もある。天の采配。めぐりあわせ。そういった諸々をひっくるめて人生といえる。

 縁側でゆっくりと静かに回転し続ける星を眺める「じいちゃん」の人生は、けっして静かなものではなかっただろう。もちろん主人公の人生もまた。

 主人公の質問に、「じいちゃん」は「未来」で応え、主人公には家族ができる。

「星空を眺めながら、縁側。」

 は、「じいちゃん」が「星空から眺めている縁側」として、過去も未来も包み込んでいる。と感じたところが選択の理由である。


痺れた一文

こころの中で、せーのっ。(四 淡いピンクの流れ星「今宵、ふたりでトキメキを」)


 少女漫画のように読めるお話だと思った。なんとなく絵柄も想像できる気がした。年上の幼馴染だが、「翔吾兄ちゃん」みたいなベタベタした温度ではないところが、主人公(萌ちゃん)の性格をよく表していると思う。

 たとえば兄の世代からもたらさられるカルチャーは、よくわからないけれども新しくてカッコいいと感じた。どうやってそんな情報を仕入れてくるのかも謎だった。「萌ちゃん」は気が乗らないと思いながらも祥吾くんの誘いを受ける。

 「こころの中で、せーのっ。」

の一文が、どこか億劫で、自らを奮い立たせることすら面倒くさいのだが、かけ声がなければ身体を動かすことさえ困難なほどの疲れを感じさせてくれる。

 この直後、このお話で初めて「萌ちゃん」は言葉を発する。それからは、思ったことを言葉にし、感情も表に出すようになる。

 その転換点となるこの一文を「痺れた一文」に選んだ。


以上

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