第115話 その後のクラン
翌日、俺は朝起きて後悔した、
布団を開けると隣りには巫女が裸のままいた。
宴の高揚感のまま、巫女に誘われるがまま一夜を過ごしたのだ。
宴で抱くと約束したことはもちろん覚えているが、その日に抱かなくても…と思ってしまった。
そんなことを考えていると巫女も目を覚ました。
「御馳走様」
「それって男が言うセリフじゃないの?」
「私達が強引に頼んだのだから間違いではないでしょ?」
「確かに。なんか以外と男っぽい性格してるな」
「見た目とのギャップがそそるでしょ?」
「いい性格してる、巫女とは思えないな…。むしろ今までの態度と180度違って人間不信になりそうだよ」
「もう一回やっとく?救世主様の息子は最高だったわよ」
「よし、取り敢えず帰れ。俺はまだ病の治療もしないといけないからまずは朝食を食べたいんだよ」
「ちょっと待ってて、朝食を貰ってくるわ」
そう言うと巫女は服を着て走っていった。
女って怖ぇー。
昨日の会話から片鱗があったとは言え、敬られるどころか立場が逆転しそうである。
はぁ、取り敢えずこの村の人を治したら早く次の村に行こう。
こうして俺は数カ月かけて全村の治療をするのであった。
その頃のクラン・フェニックス
ミロードが何処かに転移したと伝わるとクランでは大騒ぎになった。
クランとソロモンの街の冒険者の勝負はどうするのか?いない間のクランはどうするのかなど疑問が飛び交った。
そんな時に頼りになるのがセツナだった。
「うろたえるな。ミロード様の従魔が健在しここに居るってことは無事なのだろう。どうせミロード様は転移先でも奇跡を起こして人々を救っている可能性がある中、俺達は騒ぐだけか?」
セツナはナイトやサラサを見た後、さらに話を続けた。
「今の俺達を見たらミロード様は悲しむだろうな。各自ができることをせずに騒ぐだけのクランだったと…知ればな。
俺には頭脳はない、だからこそ俺は前線で魔物を倒す。
このクランにはミロード様が信頼する優秀な者や力を見出された者、奇跡を受けし者達がいるはずだ。
ミロード様は絶対に帰ってくる。だからこそ今は各自が出来ることをしろ」
セツナの言葉にナイトの心の火が灯された。
ナイトは幹部を集め今後のことを話し合う。
ミロード様が帰ってくる間の前提の話と言うことを強調して話を進める。
…………。
数時間後、ソンミン以外の全員が納得した。
何故ソンミンだけ納得していないかと言うと、一つの決め事の中にミロードが帰ってくるまではソンミンは喉を酷使することを禁じるとあったからだ。
いつ戻ってくるか分からないので、人々のために歌を歌いたいと言うソンミンが無理をしないためにナイトが先手を打ったのだ。
しかし、ソンミンは納得しなかった。
「今の私の価値は歌だけよ。目の前で私の歌が必要な時は躊躇なく歌うわ。もう後悔したくないもの…」
「その気持ちは分かりますが、喉のケアをしながら酷使しない程度で歌うのではダメなのですか?」
「ダメです。躊躇することでバフ効果が中途半端、もしくは効果が切れることで命を亡くす場合があるとミロードに教えられました」
「一生歌えなくなってもいいのですか?」
「その結果の代償ならば私は受け入れるわ」
ソンミンの意志は固いらしい。
以前の護衛の時のミロードの言葉が今でも響いているのだろう。
平行線の状況にセツナが場を治める。
「ナイトよ、ソンミンに躊躇なく歌を歌わせてあげてくれ。バフが必要ない状況を俺達が作ればいいのだから。それにミロード様は絶対に帰ってくる」
セツナの目をみてナイトは渋々納得した。
「そうですね、私達がその状況を作らせないよう頑張ります」
ナイトは責任感が強いのだ。どうしても同じ転生者に何かあったらミロードを悲しませると考えている。
どうしても今のクランではナイトが参謀役になってしまうので重圧が凄いのだ。
ナイトはこれほどまでにミロードの存在の大きさを実感する。
今では、ミロードが参謀が欲しいと言っていた理由が良く判る。
「あいつは何手先まで考えていたのだろうな」
そんなことを口走りながらナイトは懸命に過ごすのであった。
そして、もう1人強い意志で魔法を放つ者がいた。
目の前でミロードが転移する瞬間を見ることしか出来ず泣きじゃくっていたエターナである。
サラサはそんなエターナを優しく労ったが、エターナは私のせいでサラサにも寂しい想いをさせると言ってずっと謝っていた。
今でも寝て食事する以外はソロモンの森でひたすら魔物と戦っている。
セツナが止めても止まることはない。
誰が見ても異常である。
魔力が無くなれば大丈夫と皆は考えていたのだが、休息場で瞑想しすこしでも早く魔力を回復させる。
さらには魔力を効率良く使う方法を考えながら敵を殲滅していく。
その光景を見て、奇跡を受けし者達が後に続いた。
「ミロード様のために」
「一匹でも多くの魔物を殺す」
「今の私があるのはミロード様のおかげよ」
「ミロード様が人々を救うなら私も…」
1人が想いを綴った瞬間に溢れんばかりの言葉が木霊する。
こうしてソロモンの森では寝るのも惜しみながら戦闘する集団が話題となった。
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