第111話 邪龍

病にかかった人達は今では希望をもってストレッチや運動などをしてもらっている。


もちろん重病者は動けないので温かい目で見ているのだが、そうした者達を気分転換と言う名目で外へ連れ出して治療する。


それを繰り返すうちに次第に洞窟内が広く感じる。


「そう言えば最近見ない者が多いけど大丈夫なのか?」


「そうよね。重病者の人達がいなくなってるから見ないふりをしていたけど…」


「流石に重病者の方々は…、助からなかったのよね?」


皆が暗い顔に変わり、涙を浮かべる者もいる。


流石にここまで人数が減ればこういう話になるよね。


俺はここで種明かしをする。


「えっ、嘘でしょ?」


「みんな生きてるの?」


「むしろ病が治ってるって本当?」


「本当ですよ。病が酷い順番に治療をしていますので、自分の番になったら確認して下さいね」


「それなら最初から言ってくれよ」


「そうしたかったのですが、本当に完治したのかなど調べることが多くて、断言できるまでは話せなかったのですよ」


「そ、そうだよな。期待だけさせてダメでしたってなったら立ち直れないかもしれないもんな…」


皆は頷いている。


「治療には魔力が必要なので、全員を回復するまで時間がかかるので待っていて下さいね」


あらかたの重病者の方達は治療が終わっているので、この話を聞いても問題は起きなかった。


こうして日々治療に励む一方で情報を集めていると村長から待望の情報を得た。


「救世主様、この度は皆を病から救っていただき有り難うございます」


「救世主ではないですがお役に立ててよかったです」


村長は首を振りながら再度話を続けた。


「折り入って相談があるのですが、結界のほうもなんとかならないでしょうか?」


「結界は知識が足りないので難しいかと」


「知識ですか?大賢者様が残していった本があるのですが、私共は読めないのでもし読めるならば知識や情報がのっているかもしれません」


こうして大賢者が書き残していった本を預かったのだが、内容を見て驚愕した。



俺は大賢者が残していった本を持ってくつろげる場所に移動した。


そして、本を開けると1ページ目に日本語でこう書かれていた。


【俺は男が好きだーーーー】



俺はそっと本を閉じて天を仰いだ。


俺って書いてるから大賢者は男性だよね?


そもそも村を助けた大賢者は男だったから間違いないよね?


まさかの大賢者のぶっこみに戸惑ってしまう。



心を落ち着かせて2ページを開いた。


【何が大賢者様だ。寄ってくるのは女どもばかりじゃねぇか。


世の中のこの称号のせいで俺は気軽に男を抱けねぇじゃないか】


俺は再度本を閉じて天を仰いだ。



そして、俺は心の中で叫んだ。


「いきなりカミングアウトしてくるんじゃねぇーーーーー。」



日本語で書かれている分さらにたちが悪い。


どうしても情報が欲しいので続きを読んでいく。


しかし、予想外に三ページ目からはまともな内容で安心した。


この世界のこと、転移陣のこと、結界のことなど多くの内容が書かれていた。



まずはこの村に関係する結界の内容だが…。


一言で言えば予想外過ぎて驚愕している。


なんでもこの村の地下に邪龍を封印しているそうだ。


邪龍を封印するために聖剣を使って何とか封印している状況だとか。


その上から魔法陣でさらに邪龍を押さえつけているのだが、月日が経ち邪龍の邪気を浴び続けている聖剣の劣化などでいつかは封印が解けるだろうとのこと。


聖剣が壊れると魔法陣だけでは抑えることは無理なので、邪龍を討伐するか聖剣を探しだして再封印宜しくと書かれていた。


簡単に言ってくれるが、大賢者はそれをやってのけた人なので文句は言えない。


さらには妖や鬼の存在に関しても書かれている。


邪龍の溢れ出た邪気が魔素と人の怨念や思念を取り込み生まれた存在が妖だそうだ。


魔物は魔石があるが、妖は魔石がないことが特徴らしい。


ちなみに魔物は邪悪な魔素から生まれる場合と魔物同士から産まれる2パターンがあると書かれていた。


鬼に関しては一つ目鬼や二つ目鬼の魔物がここら一体に住み着いていたのだが、邪龍の邪気にあてられて狂暴化や変異した鬼となり普通の魔物より凶悪になったそうだ。


あまりの情報量に唖然とする。


そして一番驚いたことは、邪龍の溢れだす邪気や魔力を使って転移魔法陣を作ったとも書いてある。


一年に一度異世界と月と太陽が重なる日にランダムで転移できる仕組みを作ったそうだ。


転移場所は10カ所設置し、✮の5つの先と線が交わる5カ所の計10カ所の位置に魔法陣を仕掛けることで成功させたとも書いてある。


そう考えるとこの村も同じ異世界であることが分かった。


いろいろな情報に考えることが多いが、まずは一つ一つ対処するしかない。


いつか帰れる方法も分かったし、同じ星の元に居るので海と空は繋がっているので安心だ。


ペルルを召喚せずにずっとミナミに預けているので俺が無事な環境に居ることは分かってくれるだろうし、奇跡を受けた奴隷達は奴隷紋があるため繋がりを感じているから大丈夫だろう。


こうして大賢者のおかげで様々な情報を得たのであった。














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