第107話 名前の由来
適当な返答が功を奏したのかシシオウが語りだしてくれた。
簡単に話をまとめるとこうだ。
以前は貴族の私兵団に彼女と一緒にいたそうだが、護衛依頼の最中に彼女を亡くしたそうだ。
護衛の最中だったため弔いもできず、その想いもあってずっと後悔していたそうだ。
彼女が亡くなった理由は猛毒を持った魔物の爪をくらい、護衛の最中に毒がまわってあえなく…。猛毒のため、通常の毒草では治らず、薬草や毒草を騙し騙し使っていたが町まで後1日という距離であえなく亡くなった。
もしかしたらもっと多くの薬草や毒草があればギリギリ町まで持っていたかもしれなかったと言う想いから、シシオウは冒険者となりずっと薬草などの採取依頼をしているのだと言う。
俺はそれを聞いてこう返した。
「誰かのためになり素敵なことだと思いますよ。これからも頑張って下さいね」
「全然心がこもってないですね」
「そりゃーそうだ。そんなに後悔しているならば、秘薬でも猛毒でも治せる薬を探せよ。自身を納得させるための言い訳に聞こえる。お前なら死ぬ気になればそれぐらいできると思っているからな」
俺は厳しい口調で伝えた。
「言い訳…ですか…」
それからシシオウは黙ってしまった。
「輪廻転生って言葉を知っているか?」
「生まれ変わってもって話ですよね?」
「そうそれ。実際に輪廻転生はあるそうだ。だから、過去に囚われていないで、未来の彼女といつか会えることを想像して頑張ってみないか?」
俺の言葉と共に何故かテテがシシオウにすり寄った。
慰めているのだろうか?
この時シシオウはテテが何かを訴えているように感じたと言う。
「この子は?」
「卵から産まれた私の家族です」
「なんか素敵な子ですね。この子が私に今を大切に生きてと言ってる気がして…」
「そうですか。それでシシオウさんはこれからどうするんですか?」
「どうしましょうね。気付けばもうすぐ30歳になるオジサンですから」
「歳なんて関係ないですよ。貴方のスキルがあればまだまだ輝かせられます」
「やはり私のスキルを分かってるのですね?」
「冒険者ギルドは知らないのですか?」
「スキルは知っているそうですが、内容が分からないそうで…どんなスキルかも知らないですね」
「そうですか…。スキル《夢幻泡影》素敵なスキルですね」
「もしかして内容も分かるのですか?」
「内容までは…。ただ言葉の意味は世の中の物事には実体がなく、非常にはかないことでしたよね?」
「アハハ。よく言葉の意味をご存知で…。私が意味を知ってスキルを理解するまでにどれだけの月日がかかったことやら」
テテがシシオウをヨシヨシしている姿が可愛すぎる。
「それでどうするんだ?今後は人のために神薬などの材料を探すのか?それとも恥じない人生を謳歌するのか?」
「どうでしょうね。ちなみに噂で聞いたのですが貴方は奇跡を起こせるのでしょうか?」
「奇跡なんて人によって価値観が違うだろう…?どんな奇跡を考えている?」
「死者を蘇らせることは出来ますか?」
「それは出来ないな。その観点で見ると俺のしていることは奇跡ではないのかもな」
「冗談です。確認したかっただけなので」
「すこしは元気がでたようで良かったよ」
その後もたわいもない話をしてから分かれた。
今更ながらシシオウのスキルは反則だと思う。
スキル《夢幻泡影》と《双剣》なんてヤバイだろう。
私兵団なんかより冒険者こそが輝ける場所だろうに。
まあ、何処まで使いこなせるか分からないが人間味があって、人のことを考えられる優秀な奴は是が非でも仲間に欲しいと思ってしまう。
まあ基本は本人が望まい限りはクランには勧誘はしないが…。
俺はその後もぶらぶらと街を観光して行く。
噴水が沸き誇る大きな公園に立ち寄った。
子供が親と一緒にはしゃぐ姿を眺めていると1人の老人が話しかけてきた。
「フォッ、フォッ、フォッ、この街はどうですかの?」
この街?俺のことを知ってる?
「そうですねー、冒険者やギルド職員には思うこともありますが、大きな街の割には子供達の姿を見ると穏やかな街なのかと思ってしまいます」
「フォッ、フォッ、フォッ、それは嬉しい言葉じゃの。この街の由来を知っておるかの?」
「言え、知りません」
「この街はのー、昔はいろんな種族が居て種族間で争っておったのだ。
どの種族も武力だけではなく魅了や状態異常などの様々な己の武器を狡猾に使いながらいがみ合っていたのじゃが、ソロモンと言う者が知恵のみで全ての種族を負かして頂点になったのがこの街の由来じゃ」
「へぇー、凄い人がいたんですね」
「そうじゃ。ただ、そんなソロモンでさえも森の奥深くには侵入できず、この森の理を理解することが出来ないことからソロモンの森とも名づけられておる」
「面白いですね。森の最深部には誰も辿り着けないのですか?」
「未だに誰一人として辿り着けていないと聞いておるの。森の中は魔境ともダンジョンとも思えるほどの場所だと言われておる」
「そうなんですね。ちなみに森の浅瀬だと問題はないのですか?」
「始めは普通の森じゃ。奥に進めば進むほど謎に包まれているそうじゃ」
「なるほど。それで王都に応援の依頼をだしたのですね?」
「なんのことじゃの?」
「違いましたか?この街のお偉いさんかと思ったのですが?」
「儂は隠居したただのジジィじゃの」
「そうなんですね。貴重な情報を有り難うございます」
この話を聞いても俺は変わらずに街を観光するのであった。
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