第102話 人々を救う意志

ソンミンは意を決したようだ。


「皆さまの要望はわかりました。誰もこの状況に助ける声を上げてくれないのですね。おかげ様で私は決心しました」


「やっと歌う気になったか、始めから歌えばいいものを」


「私の病気がもし治ったとしても今後一切貴族の方のために歌うことは致しません」


「な、何を言っている。そんなことをしたらどうなるか分かっているのか?」


「ええ。なので私は貴族の名を捨て1人の女性ソンミンとして生きていきます」


それを聞いてクズダンは笑いだした。


「ルクセンバルク爵もそれでいいのですか?」


ルクセンバルク伯爵は俺をちらっと見た後に返答した。


「ああ、ソンミンは今をもって破門とする」


「ハッハッハ、これは笑うしかねぇな。今よりお前はただの一般人だ、貴族の言うことを聞かないとどうなるかわかるよな」


ソンミンは焦った顔をしている。


「わ、わかりませんわ」


「ほら、金ならやるから歌いな。なんなら俺の愛人にしてやろうか?」


周りの男達もニヤニヤしている。


「クズダン殿、俺も一発やってみたかったんだ…終わったらいいですか?」


「ああ、終わったらな」


「私は歌うことも貴方の愛人になることもしません」


そう言って去ろうとしたソンミンの手を掴んだ後、髪を鷲掴みにした。


「い、痛い、離して」


ソンミンの声に誰も反応しようとしない貴族。


クズダンはなかなか歌わないソンミンの頬を叩いた。


「早く、歌え」


「いや、死んでも歌わない。貴方のために歌う歌は一生ないわ。この歌は、この歌だけは心から望んだ者や困っている人のために歌うの…」


ソンミンの叫び声が響き渡る。


「貴族に逆らったことを後悔するんだな。侮辱罪で連れていけ」


ソンミンの決意に俺はようやく動きだす。


「セツナ、行くぞ」


「やっとか、待ってたぞ」


俺とセツナは上空に飛びあがり、ソンミンとクズダンの間に割って入る。


「ソンミン、よくぞ言った。お前の覚悟が奇跡を生むだろう」


俺はソンミンに手を当て魔法を唱える。


「人々を救う意志が神に届きし時、この世に奇跡が舞い降りる、パーフェクトヒール」


神々しいほどの光がソンミンを照らす。


「う、嘘。喉の違和感がなくなった?」


ソンミンは奇跡を実感して戸惑っている。


次に俺はクズダンに向かって物申す。


「おい、散々好き勝手言いやがって、俺のクランメンバーに何をした?」


「だ、誰だお前は」


「クラン・フェニックスの代表者のミロードだ」


ソンミンは未だにポカンとしいた顔をしている。


「クランの代表者ごときがでしゃばるな」


「でしゃばるな?まあ、いい、今回は見逃してやろう。ソンミン行くぞ」


俺とセツナはソンミンを連れて退場しようとする。


「おい、そこの女は置いていけ。その体に用があるんでな」


「断る。これ以上揉めるなら力ずくで来るんだな」


その言葉を聞いてクズダンが護衛の連中に指示をしている。


やからが数人で来たがセツナが瞬殺した。


「おい、俺達に敵対するってことでいいんだな?今後一切、クラン・フェニックスはお前がいる場所や治めている町の依頼を受けない。スタンピードが起きようが一切依頼を受けないと宣言する」


「ふん、たかが一クランが依頼を受けない程度問題ない」


「そうか…。他の貴族の連中も覚えておけ、こいつに味方して俺達と敵対するのなら容赦はしないとな」


俺はその言葉を言い残して去っていく。


去り際にルクセンバルク伯爵は軽く頭を下げていた。


たぶんこうなることを予想していたのだろう。



会場は後にして俺はソンミンに問う。


「貴族じゃなくなったがいいのか?」


「ええ、問題ないわ。不自由のない生活は魅力的だったけど、私の性格は貴族に合わなかったから」


「そうか…、よく頑張ったな」


俺が優しい言葉をかけるとソンミンが驚いている。


「そ、そんな優しい顔もできるのね」


すこしだけソンミンの顔が赤くなった。


「俺をなんだと思っている?」


「悪魔のような天使?」


「ふっ、曖昧だな」


「そうね」


その言葉の後に俺達は笑い合った。


ここで俺はあることに気付いた。


「セツナ、大変だ」


「どうした?」


「俺ら護衛依頼の最中だった」


「あっ」


「流石に俺が今戻るのは気まずい。だから、後はセツナ頼んだ」


俺はソンミンの手をとって逃げ出したのだった。


護衛は会場に数人残しているので、セツナが戻れば戦力的にも問題ないだろう。



「逃げ出してきたのはいいけど、ここは何処だ?」


「さぁ、どこだろう?王城の何処だろう?」


そんな話をしていると後ろからラブイーナが来てくれた。


「もーう、やっと追いついた」


「いやー、来てくれてよかった。この場所からの出方を教えてくれ」


「はぁ、まったくー」


俺達は王城を後にして王都で有名なカフェにきた。


注文を頼み、料理がきた瞬間に俺はがっついた。


「そんなに急いで食べなくてもいいんじゃない?」


「王城で豪華な料理を目の前にして食べれない悔しさをぶつけてるんだ」


「そ、そう」


二人は呆れている。


「それよりも貴方達が去った後、会場はざわついていたわよ」


「何か言ってた?」


「私もすぐに追ってきたからすこししか聞いてないけど、クズダン殿のいる場所と言うのはこの国なのか?それとも住んでいる町と言う意味なのか?って騒いでいたわね」


「ほぅー、周りの貴族はすこしは危機感があるようで安心したよ。これからのクズダンがどうなるか楽しみだな」


こうしてクラン・フェニックスにソンミンが加入したのであった。

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