第101話 ソンミンの決意
その後も滞りなく式典は進み、式典後はダンスパーティーへと移った。
会場は豪華な食事で語らうコーナーとダンスホールとで半々に分かれている。
前方には色々な楽器が置かれているが日本では見た事がない楽器も多数ある。
人もだんだんと集まり、間もなく始まりそうだ。
しばらくして会場のアナウンスと共に綺麗な音色がなり響いた。
演奏と共にダンスホールの中央に第一王子と公爵家の次女が現れ軽やかに踊りだした。
見る者全てを引き込むほどの華やかさがある。
やはり音楽とダンスの組み合わせは最高である。
一曲が終わると同時に他の方々も一斉に踊り始める。
皆の楽しそうな姿を見て、それに釣られてダンスに誘う光景が多くなっていく。
面目上は護衛なので俺は壁際で様子を見ているのだが、見ているだけでも楽しい。
ただ豪華な料理を食べれないのは辛い。
そんな中、護衛をしている俺とセツナに話しかけてくる人物がいた。
「よう、ミロード」
「なんだダンダンか」
「なんだとはなんだ」
その横に第四王女様がいるのだが、セツナに夢中見たいなので軽く挨拶だけして放っておく。
セツナはダンスに誘われていたので、手の平を振って送りだした。
「こんなところで会うとはな」
「美人三姉妹の次女の護衛だ」
「ほぉ~、なるほどなるほど。流石は今話題の人物だな」
「どんな話題だ?」
「奇跡の不死鳥がクランを作り、魔王軍と戦う戦力を欲していると噂になっているぞ」
「なんで俺達が魔王軍と戦うことになっているんだ?」
「別名、神の使徒だからじゃないのか?」
「あー、そんな呼び名もあったな」
「この国の連中は商業都市に本拠を構えたことに焦っていたぞ」
「この国の貴族に魅力を感じなかったからな」
「バカ、こんな場所でそんなことを言うな。聞かれたらどうするんだ?」
「別に…。まあ、確かにトラブルになると面倒だなと思うくらいかな」
「まったく。そんなに貴族を毛嫌いしなくてもいいのではないか?」
「もちろん真っ当な貴族もいるから、そういう者としか関わらないようにしてるから大丈夫だ」
「まあ、困った時はミロードのクランに頼むことにするから俺とは仲良くしてくれよ」
「まともな依頼だったらな」
「そこでだ、一つ依頼があるんだが…」
俺はジト目でダンダンを見る。
そんな話をしていた矢先に依頼主の隣りで3女のソンミンが絡まれていた。
「あれは誰だ?」
「あー、公爵家の長男だな」
「了解、念のため近くに行ってくる」
「俺も一緒に行こう」
俺とダンダンはソンミンの近くまでやってくると話し声が聞こえてきた。
「ソンミン嬢、良かったら俺のために歌ってくれないか?」
「申し訳ございません。喉の病気で今は歌えないのです」
「フェニックスのクランを雇ったと情報が入っている。もう治っているのだろう?」
「いえ、護衛の依頼なので病気は治っておりません」
「あー、うだうだご託はいらないんだよ。俺が歌えと言ったら歌えばいいんだよ」
クズダンの言葉を聞いてラブイーナが割り込む。
「妹は病気で歌えないって言っているじゃないですか」
「そんなに流暢に喋れるならすこしぐらい歌えるだろうが?」
クズダンの荒れた言葉に周りも騒ぎ始めた。
俺は取り敢えず静観する。
立場が低いせいか、ソンミンは再度謝る。
「申し訳ございません」
「謝罪はいらない、俺様のために歌えっていってんだよ」
クズダンはソンミンの手を強く握り、ステージまで引っ張っていった。
クズダンはマイクを握り皆に話しかける。
「せっかくなので歌姫に一曲歌ってもらおうと思う。皆の者拍手を…」
一斉に拍手や歓声が沸き起こり、ソンミンの歌声を楽しみにしている。
ソンミンは泣きそうになりながらオドオドとしている。
俺と目が合ったが命の危険性はないので俺は現状助ける気はない。
しばらくしてソンミンが歌おうとしないのでヤジが飛び始めた。
「早く歌えよ」
「お前一人のために皆が待っているんだぞ」
「早くしろー」
中には怒号も聞こえる。
ルクセンバルク伯爵も何故か助けようとしないで見ている。
「ダンダン、なかなかカオスな状況だな」
「ソンミン嬢は歌えるのか?」
「歌えるんじゃないか。まあ、今後喋れなくなる可能性もあるが」
「おいおい、それはマズイだろう」
「歌えないという情報もあるなかで、本当にクズな貴族が多いな」
「……。助けなくていいのか?」
「護衛の管轄外だ」
ソンミンは諦めたのか、天を仰いだ後に喋りだした。
その瞳は真っ直ぐに何かを決心したような目をしていた。
「私は現在喉の病気で歌うことができません。そのことを伝えてもクズダン殿は私に歌えとおっしゃいました。皆様もクズダン殿と同じように私に強要するのでしょうか?」
「ごたくはいいから歌えと言っている」
クズダンが再度教養する。
さらにはクズダンの仲間と思われる者も煽りだした。
公爵家に面と向かって言える者がいないのか、ソンミンを助ける者は1人もいないようだ。
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