第98話 弔い

馬車の周りは悲惨な状況である。


護衛と盗賊を合わせると凄い死者がでている。


今は重傷者から回復魔法を使っている最中だ。


次女のラブイーナも一緒に回復魔法を使っている。


それを遠目で見守るソンミン。


死者を見つめては何かを考えているように見える。


護衛の回復も終わり出発の準備に移る。


その間俺はどうしてもしたいことがあるので辺境伯に交渉をしに行く。


「ルクセンバルク伯爵、今お時間宜しいでしょうか?」


「此度の護衛に重傷者への回復と感謝する。改まってどうした?」


辺境伯の隣りで3姉妹が聞き耳をたてている。


「死者を埋葬して上げたいので自分だけ残っても宜しいでしょうか?時間もあると思いますので他の者は護衛を続けますので」


「うむ。そうしてやりたいのだが護衛の数も減っているから君がいないと不安でな…」


その言葉に聞き耳をたてていた次女が割って入ってきた。


「お父様、私からもお願いします。私達を守るために死んでいった者達に感謝の意を込めてお時間を下さい」


「まあ、数日は余裕を持って出ているからラブイーナが残りたいと言うならば全員で弔うとするか」


「有り難うございます」


こうして死者8名の火葬が始まった。


この世界ではアンデットにならないように火葬が定番となっている。

旅の途中で亡くなった者は火葬した後に身分証を町などに提出するのが礼儀となっている。


もちろん戦争や旅の途中で亡くなったものの時間がなく放置される場合もあるが、そういう場合は時間と共に魔物や動物が食べていることがほとんどだ。

最悪の場合はアンデットとなるので、旅の途中で火葬されることは最善を尽くす意としても推奨されている。


また盗賊に関しては身分証がない場合や懸賞金がある場合もあるので時間や余裕があれば死体を持って町に持っていくことが多い。


ちなみに賞金稼ぎなどは首だけを切って持って帰るそうだ。


こうして俺達は土魔法で埋葬できる大きさの穴を複数作り、その中に一人一人を穴に運び火をかける。


俺は死者に手を合わせ言葉交わす。

「命を賭けて守ろうとしたお前達を俺は誇りに思う。


お前達の意思は俺やクランメンバーが命の灯として引き継ぐから安らかに眠れ。


共に戦えたことに感謝の意を…、有り難う」


俺は深々と一礼した。


自然と涙が零れる。


その様子を見た三女が隣りに来て一緒に手を合わせ一礼した。


「ごめんなさい」


「なにがだ?」


「貴方は最低な人間だと思っていた」


「だれが何と思おうが俺には関係ない。実際最低なのかもしれないしな」


「そんなことない、最低なのは私」


「………。」


「貴方も気付いていたからこそあんな言葉を言ったのでしょう?」


「俺達のクランメンバーで、今回死んだ奴は全員奇跡を受けた者だ」


その言葉を聞いてソンミンは複雑な顔をしている。


「奇跡を受けた連中は全員誰かを守るために命を使えと言っている。この意味が解るか?」


「なんとなく…」


「お前が奇跡を授かれなかったのは自分のことしか考えてないからだ」


「そ、そんなこと…」


「心の何処かで、喋れるから大丈夫。その内治る可能性もあるし…って考えていただろう。お前は何のために歌うのだ?」


ソンミンは俯き何も返答はない。


俺は再度問う。

「誰のために歌うのだ?」


「私は歌が好きで、アイドルに憧れて、キラキラしたかった。それじゃダメなの?」


「テレビがないこの世界でか?」


「えっ、もしかして…?」


「俺は歌は偉大だと思っている。人の心の隙間を埋め、勇気や希望を与える物だと思っている。ましてやスキルや魔法がある世界でわざわざお前が授かったスキルや選んだスキルが誰にも恩恵を与えていないことに苛立ちさえ感じている」


「そ、それは…、デメリットがあるからしょうがないじゃない」


「そうやって言い訳ばかり考えていればいい。今のお前には価値がない」


「あんたに何が解るって言うのよ?」


「分かりたくもない。お前が先程の戦いで歌っていたら救える命もあっただろうな」


俺はその言葉と共に立ち去った。



「珍しくミロードにしては厳しい言葉を投げかけましたね」


ソンミンの前にナイトが現れたことでビックリしている。


「あ、貴方は?」


「いきなりスミマセン。すこし話し声が聞こえてきましたので。貴方と同じ転生者ですよ」


ソンミンはさらにビックリしている。


「あ、あなたもあいつと一緒で説教しにきたの?」


「まさか。思ったように行かない気持ちは分かります」


「貴方もデメリットで苦しんでいるの?」


「私の場合は開き直りました。ただ、もう1人の転生者は奴隷にまで落ちていた所をミロードに助けてもらっていますがね」


ナイトはミナミと自身のことを簡単に話した。


「そう、私はまだ恵まれていた方なのね」


「どうでしょう。現在好きな歌が歌えない貴女も辛いとは思いますが、自身のデメリットに向き合い療養と歌のバランスをとっていたら違う未来があったのかもしれませんね」


「そう…よね。周りに褒められ、貴族からの依頼が殺到し調子に乗った結果が今の私…救えないわね」


「貴女も同じ転生者なら仲間が無くなる悲しみも分かるでしょ?キツイ言葉を残したミロードを悪く思わないで欲しい」


「ええ、今ならあの人が言った意味がすこしは解るわ」


こうして亡くなった者に弔いをしながら一夜を過ごしたのであった。


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