第96話 対価
俺達は出発の日まで屋敷にて護衛を行っている。
三日後が王都へと向かう日となっているので、その間もローテーションで護衛をしている。
俺はと言うと、エターナと一緒にラブイーナの傍で優雅に紅茶を飲んでいる。
傍で護衛しろと依頼主が五月蠅いので仕方なく…。
皆は外で警護をしており、屋根裏にはナナがいるので死角はない。
こうして俺とエターナだけはラブイーナの傍で気楽にしているのだが、やけにこちらを見てくる女性がいる。
そう、3女のソンミンである。
横目でチラチラと見てくるのだが、今は敢えて気付かないふりをしている。
「ソンミン、そんなに気になるなら話したらいいのに。普通に話すことならまだ大丈夫でしょう?」
「もう歌うことは出来ないけど、話すことなら今は大丈夫よ」
「そうなんですね。俺に何か用ですか?」
「本当に奇跡を起こせるの?」
「場合によっては起こせますよ」
「私の声帯は治るかしら?」
「どう言う症状ですか?」
「私は喉を酷使する度に声帯が萎縮するデメリットを授かってるの。現在は今まで喉を酷使した結果、歌うことが難しいほどに声帯が委縮してしまっているわ」
「そうなんですね。お気の毒です」
「それは治せないと受け取っていいの?私は歌が歌いたいの。その為ならなんだってするわ。治せるのならばお願い…治して」
泣きそうになりながら切実にお願いされると俺も弱い。
「なんでもするのですか?」
「ええ。この体を差し出せと言うのならば好きにしていいわ」
「じゃあ、その条件でいいですよ」
ラブイーナとソンミンは二人して「えっ」って顔をしている。
「ミロード様、何を言っているのですか?私達じゃ満足できませんか?」
「後で事情は話すから」
「わ、わかりました」
なんとかエターナを説得した。
「では、二人っきりになれる部屋に案内してくれますか?」
「えっ、こんな昼間からするつもり?」
「そうですよ。あなたが提示した条件ですよね?」
「や、やっぱり無しでいいわ。歌えないのは辛いけど…命が無くなるわけでもないし…」
「そうですか、なら話はなかったと言うことで」
気まずい雰囲気が辺り一面を漂う。
その後も変わらずに俺達は護衛を行った。
俺はその夜辺境伯に呼ばれた。
「突然来てもらって悪いね」
「大丈夫ですよ。それよりもどうしましたか?」
「娘から話を聞いたんだが、声帯を治す代わりに体を要求されたと言っていたが本当かい?」
「すこしだけ違いますね。先に言い出したのは娘さんの方ですよ。治してくれるならば何だってする、この体を差し出せと言うなら好きにしていいわとね」
「それでミロード殿はその報酬で納得したと」
「そうですね」
「今まで君は無償で奇跡を起こしてきたと聞いたが、何故娘には対価を求める?」
「無償で奇跡を起こしている?そんな事実はないですよ。言っときますが、奇跡を受けた者は幹部を除いて皆奴隷のままです…。言いたいことはわかりますよね?」
「どうか頼む、娘を治してくれないか?」
「お断りします。彼女は奇跡を受ける資格がありません。資格がない者に奇跡を行うことは今後災いを呼ぶ可能性がありますので」
「どうしたら資格を得られるのだ?」
「それはお答えできません。ただ一つだけ言うならば…、彼女は今後歌えるようになったならば何のために歌を歌うのですかね?」
善良な部類の貴族とあって、俺はヒントだけ伝えておいた。
その頃、とある一室での会話。
「あんな人だとは思いませんでしたわ。尊敬していた想いを返して欲しいわ」
「お姉様いいのです。治る可能性があると分かっただけで十分です」
「平民に奇跡を使うくせに私達貴族には対価を求めるなんて最低だわ」
「そう…ですよね。ただ、奇跡には時間もお金もかかると言っていましたので…」
「それならばお金を要求すればいい話でしょ。ソンミンが綺麗だからって体を要求するなんてクズよ」
「お姉様、憧れていた人なのでは?」
「幻滅しましたわ。弱者や孤児を助ける素敵な殿方だと思っていましたのに。傍にいるだけで怒りがこみ上げてくるので明日からは違う護衛を傍におくわ」
姉のラブイーナが怒ってくれることでソンミンは逆に冷静になっていた。
そんな気まずい雰囲気の中王都への出発の日となった。
しばらくは何事もなかったのだが、ついに事件が起こった。
事件が起こったのは出発の日から1週間後。
森の中から大勢の盗賊達が襲撃してきたのだ。
盗賊の人数とは思えないほどの数である。
人数にして100名前後。
対するこちらは護衛33名。
約3倍の人数の敵を護衛しながら盗賊を追い払わないといけない。
ちなみに馬車は3台。
先頭が娘3姉妹の馬車で真ん中が辺境伯夫妻。最後に後ろが荷馬車である。
もちろん前後から盗賊に襲われているので、前衛と後衛はすでに戦闘が始まっている。
俺やセツナは中央の辺境伯の馬車を守る布陣にいたので対応が遅れる。
そんな中ナナが情報を持ってきた。
「主君、闇ギルドのメンバーが混じっている。特に前方は危うい、今は必死にナイトが持ち堪えている」
俺はすぐに指示をだす。
「前方は俺が行く、後方はセツナが行ってくれ。中央はアランとエターナが護衛を」
「「了解」」
こうして闇ギルドとの激しい戦闘が始まった。
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