第94話 正義

殲滅軍を作り部隊強度や連携を訓練させ一ヶ月が経つ。


その一ヶ月の間にもクランに依頼が来ることがある。


まだ何も名乗ってもいないのに直接クランの殲滅軍宛に依頼が来るのだ。


何故?とも思えるが、クランメンバーが多いと噂話などで筒抜けになるのだろう。



メンバーが多いことで問題も多数発生しているようだ。


主に元孤児のメンバーが力をつけた結果、己を誇示し増長しているそうだ。


他の冒険者や民衆に威張り散らしていると聞いた。


別に人々に迷惑をかけなければいいのだが、冒険者同士で殴り合いになることも…。


これを踏まえてどうするか皆で会議する。


なんか最近話し合ってばかりな気がする。


「今回の議題だがどう思う?」


「まあ、別に普通じゃない?」


「クランの評判を落とさないならいいんじゃない?」


以外と転生者以外は何も思ってないようだ。


「え?このくらいじゃクランの評判は落ちないの?クラン通しの対立とかならないの?」


「ミロード様は考えすぎよ。今回も個人通しで喧嘩しているから問題ないわ。これがクランの名前を名乗れば別ね」


え、そんなもんなの?


価値観が違い過ぎてどれが正解が分からん。


「よし、決めた」


「どうすることにしたの?」


「アラン、後は任せた」


「え、僕ですか?」


「俺の考えで決めると厳しくなってしまうからな。適任者に任せることにした。ただ、クランの名前を使って威張り散らす奴は除名するとだけ言っておいて」


除名と言う言葉に皆が驚く。


「個人の為のクランじゃない。個人を受け入れるためのクランだ」



「そ、そうですよね。元孤児の連中がこれ以上増長しないように伝えておきます」


「なぁ、ミロード様?」


「どうしたの、セツナ?」


「このクランを馬鹿にされて喧嘩した者も多くいる。そいつらの気持ちはよくわかるから許してやってくれないか?」


この世界では暴力は当たり前にある。


言葉で喧嘩していたはずが暴力のケンカにすぐに変わる。


この場合の法はお咎めなしなので、力がある者が好き勝手している。


もちろん一方的な暴力は法で咎められるが、その境目が難しい。


転生前の法の知識とかけ離れすぎているのだ。


「セツナがこのクランを馬鹿にされたらどうする?」


「切る」


「冗談だよね?」


「冗談だ。気絶させるだけだ」


うん、冗談になってないな。


「ミナミはどう思う?」


「みんなこのクランが好きなのよね。嬉しいよね」


うん、こいつに聞いたのが間違いだった。


「ナイトはどう思う?」


「難しいですね。皆がクランを想ってした行動がクランに迷惑になる場合があることを知ってもらいたいですね」


「流石はナイト。いいことを思いついた」


こうして何件かの事案を調べてもらい、クランを馬鹿にされて激怒した結果こちらから暴力を振るった事案を見つけてもらった。


喧嘩した者とミナミ達を連れて相手方の元へと向かう。


俺達が大勢で来たことで相手方はビビッている。


「おい、クラン大勢で来るなんて卑怯だぞ」


俺は一歩前にでて話をする。


「クラン代表のミロードと申す。すこし話をしていいかな?」


「だ、代表?代表様自ら大勢で殴りに来たのかよ?」


「冷静になれ。話がしたい」


「わ、わかったよ。俺がクランの悪口を言って悪かった。謝るから許してくれ」


その言葉を聞いて喧嘩したメンバーは勝ち誇った顔をしている。


「状況を確認したい。君がクランの悪口を言った後、こちらから先に暴力を振るったで間違いないか?」


「ああ、そうだよ。バカにして悪かった」


その言葉を聞いて俺は頭を下げた。


「先にこちらが暴力を振るって悪かった。申し訳ない」


この行動に皆がビックリしている。


俺の行動を理解したミナミとナイトが続く。


「ごめんなさい」


「先に殴ったみたいですまない」


相手側も驚きすぎて固まっている。


「許してもらえないだろうか?」


「え、あ、こちらこそすみませんでした」


うん、無事に許してもらえたようだ。


その後、俺は喧嘩したメンバーの目を見て話す。


「君がクランを馬鹿にされて怒ってくれることは嬉しい。だがな、言葉で馬鹿にされたなら言葉で言い返せ。相手が暴力で来たなら暴力でやり返せ」


「えっと、俺が悪いってことですか?」


「先に殴ったことは良くないな、相手の土俵でやり返せ。このクランを想うなら皆のために正々堂々と立ち向かえ」


「何故ですか?」


「君はこのクランが野蛮な集団と思われてもいいのか?皆何かしらの事情があってこのクランにきたのではないのか?昔の自分を忘れるな」


「昔の自分?」


「昔の君だったらどうしていた?」


「言われたい放題でした?」


「力をつけたら、逆の立場になるのか?」


「そ、そんな。クランを馬鹿にされて」


「確かに馬鹿にしたのは向こうでも、周りから見たらどう思われる?言葉が聞こえない位置にいる人から見ればどちらが正義に見える?そう見られないように言葉で言われたなら言葉で言い返せ。その結果向こうが暴力を振るうなら暴力で返せ」


俺の言葉を聞いて皆が納得したみたいだ。


こうして俺達はこの後も数件頭を下げて回った。


この件はクラン内でも話題となり、俺達に頭を下げさせない為にも同じ土俵でやり返すことが周知された。


さらにはアランがクランの名前をだして威張り散らしたら除名と伝えたことで、クランメンバーはさらに慎重になるのであった。

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