第92話 反省

宴の最中、俺が1人になった瞬間にナナが現れた。


「どうした?」


「君主を守れなかった」


「それはしょうがない、俺の指示で遠くにいたんだから」


「リーリアを守れなかった」


「必死に魔物と戦っていたんだからしょうがない」


「私は弱いな」


「そうだな」


俺の言葉にさらに落ち込むナナ。


「俺も今回の戦は反省ばかりだ。一緒に強くなろうな」


ナナは目の輝きを取り戻した。


「うむ。絶対にもっと強くなる」


「生きていて良かったか?」


ナナは言葉の意味を理解したみたいだ。


「目標があるって素晴らしいな」


「ああ、先は長い。人生楽しめよ」


「うむ」


返事をするとナナは去っていった。



その後俺は歩きながらクランメンバーの様子を見て周った。


皆楽しそうにしているが、1人だけ食事に夢中の奴がいた。


「おい、ずっと食べてないで皆と語らったらどうだ?」


「私のスキルはを知ってるでしょう?動いた分だけ人の3倍お腹が減るのよ」


「まあ、そうだけど食べながら…」


いや、止めておこう。


ミナミも途中から人の命を預かりながら指揮をしてくれたのだから。


以外と機転が利くミナミは指揮官に向いているのかもしれない。


本人は嫌がるだろうけど。


これ以上食事中のミナミの邪魔をせず、再度辺りを見渡した。


今度は1人落ち込んでいる者を見つけた。


「そんな端っこで何をしている?」


「ミロード様?」


「そんなに驚いてどうした?」


「自分は何も活躍出来なかったのに町の人達から感謝を言われ戸惑っているだけです」


「そうか、アランが活躍しようがしまいが命を賭けて戦ったことにはかわらない。その感謝は受け取っておきな」


アランは唇を噛みしめながら返事をした。


「はい」


皆、この戦に思うことがあったのだろう。


今回はいい経験になったな。


夜空を眺めると本当に月が綺麗だ。


俺は賑やかで楽し気な宴の最中に眺める月が好きみたいだ。


テテとキュイを抱っこしながら考え事をする。



俺達は何故この星に呼ばれたんだろうな?


命を賭けて戦う世界で…。


そんなことを考えていたら視線を感じた。


そちらを見てみると小さい男の子が俺を見ていた。


目があった瞬間に走ってきた。


「どうした?」


「僕が大きくなったらクランに入れてくだちゃい」


ちゃいって何だか可愛いよね。


「何でクランに入りたいの?てか、よくクランなんて言葉知ってるね」


「母様に聞いた」


母様?もしかして貴族の子供か?


「そう。それで何故クランに入りたいの?」


「この町を救ってくれたから。僕もそんな英雄の仲間になりたい」


子供から見たら英雄に見えるのだろう。


「そうか、君が大きくなった時も同じ気持ちだったらクランに来るといい」


「うん、じゃない、はい」


子供が帰って行く姿を見て俺は考えさせられる。



まずは、このクランをどうするかだよな。


いずれはミナミに任せるとして、ナイトと別に表舞台に立って指揮できる者が欲しいな。


その時、ふと思った。


死が隣り合わせの世界でうじうじと考えてもしょうがないと…。


死ぬ覚悟で戦うかは本人の気持ち次第だ。


なので、クランに戻ったら皆にアンケートに答えてもらおう。


そのアンケートによって部隊を分けようと思う。


死ぬ覚悟をもって人々を救いたいと思う者には、今回見たいな依頼があれば受けてもらう。


日々の生活を安全に生きたいなら都市の中で依頼を受けてもらう。


俺が全員の命を背負うことは無理がある。


いつか精神が崩壊してしまう。


どこかで逃げ道を作っておかないと心が病んでしまうだろう。


この世界の人達は死に慣れ過ぎているが、転生前の記憶がある俺はどうしても考えてしまう。


その反面、自分が殺されかけたことには無頓着だ。


むしろ周りが怒り狂っているので気にしないことにしている。


ナナなんかは絶対情報を探し出してやると言ってやる気をだしていた。


エターナなんて抱き着いて一時の間離れなかったほどだ。


心配してくれるありがたみを感じながらお酒を飲みほした。


おっ、このお酒いけるな。


この世界は果実酒が豊富で味わいを楽しむには最高だ。


もちろんビールなどもあるが日本で味わえるようなキレはない。


流石にビールの作り方などの知識はないのでいつか他の転生者が開発してくれることを祈っている。




宴も終わり翌日は海鮮料理を楽しむことにした。


まあ宴も終わりとは言ったが、未だに飲んでいる者もいる。


無事に依頼を達成したということで、皆にお金を渡して楽しんでもらう。


俺はエターナとリーリアと共に食事処に行き料理を堪能した。


魚の魔物の料理もあるので、食べたことのない味わいもあり新鮮で美味しかった。


感想を言うと風味豊かな魚介の味が舌に伝わった瞬間に溶けてなくなるほどの喉越しが最高だ。


ちなみにミナミは1人で食べ歩きに行ったとだけ言っておこう。


こうして各々が生きていることに感謝しながら楽しんだのであった。






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