第88話 ミズリルのその後

ミズリル視点。


私は両親の治療のため至急村に帰ると言って、半ば強引に教会の退会処理をして逃げ出してきた。


引き留められる前に急がないと大変なんですと泣きながら演じた結果、無事に退会できたのは幸いだろう。


こうして私は商業都市に向かった。


お金はすこしずつ貯めていたので乗り合い馬車で向かう。


こんなにノンビリと過ごす日常はいつぶりだろう。


募集していたクランはどんな場所なのだろうと妄想しながら考えていたら無事に商業都市に着いた。


門番に個人の証明書を見せ、入国理由をクランに入会するためと言ったらスンナリと通してくれた。


さらには向かう場所のかかれたパンフレットを渡された。


えっ、門番にまで周知されてるってどんだけなの?


パンフレットを頼りにクランハウスに向かった。


クランハウスに入ると受付の列に並び入会の申し込みをする。


しばらくして面接を行ってくれた。


「私は面接官のミナミと言います。貴女のお名前は?」


「ミズリルと申します。」


「あら、丁寧語が使えるのね。クランに加入する動機を教えて下さい」


「私は以前教会に所属していたのですが、そこは言葉とは裏腹に金儲けのことしか考えてない教会でした。それに嫌気がさした所にこのクランのことを知りました」


「そうですか。このクランの内容もいいものとは思えませんが?」


「そうですね。ただ奇跡が本当に起きるのかを見てみたいと思いまして」


「そのためならば、寝床と食事だけでもいいのですか?もちろん働きに応じて追加報酬はありますが…。」


「はい、大丈夫です」


「では、合格と致します。また、脱退は自由ですので合わないと思えば遠慮なく脱退して下さい」


えっ、脱退を進めるクランなんて始めてよ。


このクランはどうなってるの?


こうして私はクラン・フェニックスに入ったのだが、脱退を進める理由がすぐに分かった。


どんなけ加入者が来てるのよ。


次から次に新しい者達が入ってくる。


ただしよく見ると孤児が多い。


もしかして孤児を受け入れるためのクランだったの?


そう考えると募集要項にも頷ける。


じゃあ、奇跡って言葉は隠れ蓑にした嘘かしら。


そんなことを考えていた昔の自分をひっぱたいてあげたいわ。


本当に奇跡は起こった。


回復魔法が使える私は奴隷や孤児の体調管理やお世話が仕事となった。


そんな私は欠損奴隷の人達と良く話すのだが、皆口を揃えて希望を語っていた。


そして、クラン代表を神のように崇めていた。


これは何かのヤバイ宗教かもと思ったのだけれども、実際に欠損奴隷の人が治っている姿を見て驚愕した。


えっ、本当に奇跡が起こった…。


何なの、このクランは?


孤児を助け、欠損奴隷に希望を与え、皆が目を輝かせて働いている。


私がしたかったことを全部このクランは行っている。


こんなのお金がいくらあっても足らないじゃない。


現在もクランの加入者は増え続け500人は下らないだろう。


食費だけでも凄い金額になるわよ。


さらには新区画がこのクランに用意されたようで、皆で発展させている最中だ。


何処にそんなお金があるのよ?


それにもかかわらず、無料チケットやお小遣い程度だがクランメンバーにお金も渡している。


どうやってやり繰りしてるのよ?


幹部の連中は休んでるの?


私がもっと頑張るから自分達を大切にして…。


このクランに入ってから考え方が180度変わった。


幹部が皆に背中を見せることで、皆が付いていく。


幹部の考え方が浸透してゆき、その輪が広がっていく。


欠損奴隷の人が奇跡を受け、以前に優しくお世話をしてくれた者達に恩を返していく。


その一連のサイクルがさらに次の者達へと繋がっていく。


なんてシステムなの?


ここの幹部は何者なの?なんで奇跡を起こせるの?


ありえない光景が私に疑問符ばかりを抱かせる。


私もここでなら人のために魔法を使えるのかな?


困った人々を助けられるのかな?


死にそうな孤児に手を差し伸べてもいいのかな?


今まで救えなかった人達を思いだしながら私は涙した。


その姿を見ていた1人の青年が話かけてきた。


「君は何故泣いているの?」


「えっ、あ、スミマセン」


「何故、謝るの?」


その質問に今まで救えなかった人達のことを話した。


お金儲けのためにお金がない者に回復魔法を使えなかったこと。


まだ助かる命を見ているしか出来なかったこと。


善良な人ではなく、お金を持った悪人を助けた日々のことなどを話した。


「そう、じゃあ今からは善良な人のみに自由に回復魔法を使うといい」


「そ、そんなこと私が勝手に決めれることじゃ…」


「なんで?」


「ほら、回復魔法は無限に使えるわけじゃないから…。冒険者さん達の傷も癒さないといけないし、クランメンバーのためにも…。」


「まあ、その理由も一理あるか。ただ、基本的に君の好きにすればいい。クランメンバーの傷を癒すよりも、クランメンバーでないけど善良な人が助けを求めているならばそちらを優先するといい」


「そうしたいけど、このクランが存続することが一番大事なの。こんな素敵なクランは二度と現れないわ。絶対にこのクランを潰すわけにはいかないの」


いつしか私にとってこのクランが一番大切な存在になっていた。


「そう。なら回復魔法に適正がある子達を育てたら?君の手が自由に使えるように下を育ててみなよ。始めは大変だと思うけど頑張って」


彼はこの言葉を言うなり去っていった。


翌日、クランの掲示板に貼り紙が張ってあった。


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【冒険者の回復魔法以外の治療院を設立する】

・治療院代表者ミズリル


回復魔法に適正がある者を募集


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えっ、どう言うこと?


あの人は何者なの?


後でわかったことは、あの方がこのクランの代表者だったこと。


私はこの治療院で多くの人を救うことを神に誓ったのである。


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