第86話 区画

俺達は新しい区画を見に来ている。


商業都市は円を描いた形なのだが、そこに不自然に凹凸が増えた。


おかげで土地はかなり広く、この区域で農業もできる広さだろう。


ただ、城壁を一部切り抜いた形なので入場口は狭く感じる。


今は簡易な城壁なので、さらに内側に頑丈な城壁を作るため、外からの魔獣の心配などもいらなさそうだ。


ここまでしてこのクランに肩入れするには何か理由があるのかもしれない。


まあ、この場所は商業都市の中でも薄暗い掃き溜めの場所を通った場所にあるので治安回復にも使われている感じがする。


流石にこのクランに喧嘩を売る浮浪者はいないと思うが警戒も必要である。


こうなってくると戦力が分散されすぎて即戦力が足りないので、また皆で相談をする。


「大事になってきましたね」


「そうだな。この規模の土地をしばらく無償で提供してくれるとは…、逆に怖いな」


「何か裏があるんでしょうか?」


「たぶんな。食えないオヤジの集団だったからな」


「それよりも区画の中の配置や警備はどうしますか?」


「それが問題だな。孤児を迎えに定期馬車を出してる関係上即戦力が足りない」


「それなら最近凄いスキルを持った人達がぞくぞくと加入していますよ」


「えっ?なんで?」


「さぁ?」


「そこは聞いておけよ。良いスキル持ちは理由がなければ入ってこないだろう」


「もちろん聞きましたよ。一人はセツナさんに恩返しがしたいって言ってましたけど、他の者は行く場所がなかったなどの理由だったので、本当の理由は答えてくれませんでした」


「まあ、そうだよな。てか、またセツナ関係かよ」


「またって言われるほど何もしてないぞ」


「そうか?まあ、そいつはセツナ組に入れといてくれ」


「セツナ組なんて初めて聞いたぞ」


「今作った。まあ、それは置いといて新しいメンバーと既存のメンバーを振り分けて現在の倍のチームを作るしかないか」



「そうですね。現状今は増える一方なので人手は沢山いますので」


「農業チームと廃棄物チームを作っておいて」


「農業は分かりますが、廃棄物チームってなんですか?」


「折れた剣や壊れた魔道具などを収集するチームだ」


「そんな物をどうするんですか?」


「お金儲け?かな」


「あ、ミロードお得意の隠し事ね」


「まあ、そう言うこと。あ、後はメイドチームと料理チームもお願い」


「この人数だとそうなりますよね。ちなみに家はどうしますか?」


「森の奥地の手入れがされてない木を使えってさ。ただ、大工をどうするかだな」


「そう言えばドワーフの方も入会していますよ」


「なんで、職に困らない者まで来てるんだよ。どうなってるんだ?」


その言葉にサラサが反応した。


「今、商業都市の人気が凄いことになっているみたいよ。一攫千金を夢見る者、生きることに困っている者、奇跡を望む者が求めて止まない都市と謳われているそうよ」


「………。」


「………。」


「あいつら、このために俺らを利用しやがったな。まあ、この土地の件で文句が言えねぇ」


「商業都市に人が集まり、さらに商人達が好機と見てじゃんじゃん集まってきているわ。それを見越して他の区画の増築も検討しているそうよ」


「俺らの区画モデルを見て修正して行く方針ね。やばい、手の平で転がされている気分だ」


「ミロード様がやられるなんて珍しいですね」


「まあ、こちらにデメリットが少ないからな。こうなったらナイト、例の計画を宜しく」


「了解。てか俺の仕事量やばくね?」


「骨だけに疲労はないでしょ」


「ミナミ、酷い」


こうして俺達は次のステージに進むために動きだすのであった。



現在俺は木を伐採してアイテムボックスに入れている。


日本の知識を参考に密集している場所の木を間伐している。


そして、木を温め含水率を調整する。


調整した後で木を加工していくことで反りや曲がりなど変形しにくい木材にする。


後はドワーフや大工スキルがある者にバトンタッチしたのだが、ドワーフ達が素材を見て驚いている。


終始質問攻めに合い大変だったとだけ言っておこう。


こうして、もの凄いスピードで集合住宅が完成していった。


もちろん、始めは人数が多すぎることから男女に別れて寝るだけの場所だ。


住宅が増えていく中、農業の方でも著しい成果があった。


田畑を耕し、肥料を加えて種を蒔くのだが、成長促進のスキル持ちによりすでに芽が生えている。


問題は水をどうするか迷っていたら、精霊ユニスが湧き水に加護を与えてくれた。


通常の倍以上に水は湧き、さらには良質な水となることで水問題があっさりと解決した。


この世界は魔法やスキルがあるおかげで、クランに人数が増える一方で珍しいスキルも増え助かっている。


戦闘以外でもスキルが役に立つことが嬉しいのだろうか、皆自身のスキルを使った後に喜び回っていることが多い。


ここに来た者達は遣り甲斐を持ち、自ら率先して手伝うようになっていく。


生きることに必死で、忘れかけていた感情をようやく思い出しているようにも見える。


その光景を見てミナミは言った。


「うんうん、子供はのびのび育たないとね」


ミナミが見守る中、子供達はもの凄いスピードで成長していく。


もっとこうしたらいいのでは?


子供達だけで考えた後で大人達に提案してまでに至った。


その提案に大人が知識を追加し、皆でこの区域を成長させていく。


はっきり言って、この成長スピードはヤバすぎるとだけ言っておこう…。






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