第85話 円卓会議

俺達がクランの募集要項を貼りだしてから早速問題が起きた。


なんでも隣りの国から孤児が馬車に隠れて乗り込んでこの都市に向かったらしい。


理由を聞いたらこのクランに入りたいからだと答えたそうだ。


それを聞いた俺はクランの募集要件を追記した。


まずは隣国までの村や街に月に一度定期馬車を向かわせる旨を記載した。


さらには犯罪行為などを犯した者は加入を認めないと記載。

(生きるためにしょうがなく食料を盗んだ等の犯罪だけは要相談)


こうして俺は欠損奴隷達を4パーティに編成し各方面に向かわせる。


ちなみに現在の欠損奴隷は直ぐには治療していない。


貼り紙の信頼性を上げるために少し待ってもらっている。


今まで治療した欠損奴隷達で人数は足りるので配置したのだが、今度は馬車が足りない。


困り果ててギルドに相談したら無償で貸してくれるそうだ。


ギルドもこの国に人が増えることはメリットがあるとして協力してくれるそうだ。


まあ、セツナがツバキギルド長に頼んでもらった成果とも言える。


これで嫌がらせのようなクラン加入者は少なくなるだろう。


孤児が来やすい環境も作ったし、これですこしは落ち着くかな。



こんなことを安易に考えてた時期が俺にもあった。


2ヶ月後、俺はそんな考え違いをしていた自分を殴ってやりたいぜ。


「ナイトどういうことだよ」


「これは凄いですね」


「もう今月だけで100名以上の希望者が押し寄せているぞ」


「私は孤児担当の面接で忙しいからこれ以上は無理よ」


「予想外ですね。孤児以外の一般の人も沢山来ていますね」


「それだけじゃねぇ、なんで貧しい貴族の3男や4男とかが加入しに来るんだよ」


「家から追い出されたか、もしくわ逃げてきたのでしょう」


「そんな現実的な回答は求めてねぇ。おい、優秀な参謀はいないのか?」


「呼んだ?」


「お前は一番頼りないだろうが」


「失敬な。これでも日本にいたころは管理栄養士の資格も持っていたのよ」


「昔のお前を思い出してその言葉をもう一回言ってみろ」


「昔の私?飢餓で死にかけていたわね。うん、栄養も大切だけど食べる物がないってことが深刻よね」


「それだ。この世界は貧困が多すぎんだよ」


「そう考えるとこれからもどんどん人が来そうですね」


「おい、今後を考えて早急に食料問題をどうにかしないと資金が足りなくなるぞ」


そんな矢先、商業都市の円卓会議に呼ばれた。


俺はサラサとセツナを連れて行く。


俺達も椅子に座り挨拶が終わると会議が始まった。


「今回君達に来ていただいたのは商業都市の未来の話をするためである」


俺達は頷きながら聞いている。


「現在この商業都市は好景気になりつつある。何故だか解るかね?」


「人が集まり需要と供給の差によってですかね」


円卓会議のお偉いさん達は驚いている。


「冒険者と聞いていたが、頭も回るみたいだな」


「有り難うございます。その原因となりえる私達に何の用ですか?」


「そこまで理解しているなら話が早い。今後君達が困るであろう問題に協力しようと思ってだな」


「それは食料問題ですか?それとも住宅や土地問題ですか?」


「土地と住宅だ。食料は買えばいい。そのための需要ラインはもう抑えてある」


流石は商業都市だ。トップが貴族じゃない分頭が切れる。


「そうですか。土地は拡張ですか?それとも既存場所ですか?」


「お前は何者だ?何故話についてこれる?」


「ただのSランク冒険者ですよ」


「話すつもりはないか…。拡張だ」


「有り難うございます」


「全て分かっていると言った感じだな。孤児の入場問題もあってな区画を別につくるからそちらで管理しろ」


「承知しました。その件で一つお願いがあります」


「なんだ?」


「今後人口が増えることを加味して、その区画の税金を1年間と収穫税を3年間だけサービスしてくれませんか?」


「まあ、もともと無かった税金だ。皆の者どう思う?」


円卓会議で話し合いが始まり、概ね希望通りとなった。


ただ、入場税として一人当たりの税金だけは支払うことを約束させられた。


すでに区画の外壁は作業に入っているらしく、その中の土地は好きに使っていいらしい。さらには人数が増えた先のことまで聞かれた。


「仮にクランの人数が万を超えた場合、お主はどうするつもりだ?」


「孤児の受け入れなどの面倒を見た後は一人立ちしてもらう予定なのでそこまでは行かないと思いますが、仮に行った場合はどうしましょうね?」


「この国の脅威とならないと契約魔法を結ぶならば協力してやるぞ」


「脅威の基準を決めていただければ問題ないですよ。仮にその条件だと基準がなくクランの人数がこの国の脅威となりえると判断され兼ねないので」


「チッ、頭が切れすぎるのも問題だな。よかろう」


この親父、平気で舌打ちしやがった。

まあ、思い通りに行かずに自然とでたのだろうが、曲者ばかりで油断ならない。


なんとか向こうに主導権を渡すことなく乗り切ることで、新たな門出を迎えることができそうだ。











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