第74話 終焉
それからは文献や資料を読み漁った。
この間も一刻一刻と時が過ぎてゆく。
3日間経つも手がかりが見つからない。
5日経つころ、ついに文献に情報が記載されているのを見つけた。
今までで2回ほどスキルの解除に成功したことがあるそうだ。
一つ目は呪いのスキルに対して有効な解除スキルが存在するそうだ。そのスキルを探しだし他の条件なども含めて解除できた例が一回のみ。可能性で考えれば天文学的な数字だろう。
これに至っては残り2日で探し出すことは不可能に近い。
そもそもそれ専用のスキルってなんだよ。
2つ目は呪いを少しでも緩和させた状態で死んだ後に《リバイブ》の魔法で1分以内に死者蘇生を行うことである。
そもそも《リバイブ》を使える者を探す方も難しい。
その上で呪いを緩和させた状態とあるので、ただ単にリバイブで死者蘇生をしても意味がない。
こんなの無理ゲーだろ?
ちなみに俺はリバイブが使えるかは解らない。
魔法はイメージが大切である。その中で死者蘇生のイメージなんて考えたことがない。さらには1分以内に亡くなった者の傍にいる方が難しい。
戦争では亡くなる者を見てきたが、使えるか分からない魔法を試している余裕はない。
翌日、俺は調べた情報を正直にアイリスに話た。
「そう、調べてくれて有り難う」
「役に立てずに申し訳ない」
「気にしなくていいわ。身体が良くなっただけでも助かっているわ」
末期症状なのか、アイリスは時々胸が苦しむそうで、その度にパーフェクトヒールを使っている。
もちろんパーフェクトヒールで治ることはなかった。
これ以上は俺ではどうしようもない。
「あー、恋して見たかったな」
「今までしたことがないのか?」
「ないわね。下心のある男しかよってこないのよ」
「そうか…、美人過ぎてモテるのも大変そうだな」
「私の人生は明日で最後だから言うけど、私は国王の子供よ」
「そんな気はしてた」
「そう。お母さんを見れば分かると思うけど妾の子だけどね」
「そう言えば国王はこないのか?」
「来るわけないわ。情報や資金なら提供してくれるけど、妾の子に構ってる暇なんてないんじゃない。それに妾の子を大切にしてると序列や嫉妬で妃達が大騒ぎするそうよ」
やはり貴族なんて面倒くさいばかりだな。
1人の死を親身に悲しむこともしないなんて…、アイリスが本当に可愛そうだ。
「明日で最後なんだろう?最後にしておきたいことはないのか?」
「想像で思い描いていたことなら沢山あるわよ。でも、やはり一番は恋がしたかった」
「そっか。理想の男性は?」
「私より綺麗で清潔で優しい人」
「それって男でいるのか?女性で探したらどうだ?」
「別に女性でもいいわよ、恋が出来ればね。あ、最後に一つだけお願いがあるの」
「なんだ?」
「聞く前に俺ができることなら何でもするって言うのが男でしょ?」
「理想を求めすぎだ」
「夢見たっていいでしょ。ねぇ、最後にキスして」
「別に構わないが俺でいいのか?」
「好きな人がいないんだから、最後に親身になってくれた貴方にお願いしてるのよ。キスがどんな感じか知りた…」
俺はアイリスがそれ以上話せないようにキスをして口を塞いだ。
「モゴモゴ」
俺はそっと唇を離した。
「キスするならするって言いなさい」
「それでどんな感情だ」
「唇って柔らかいのね。それくらいね」
「そりゃー好きな人とキスしないとそうなるさ。胸のトキメキや感情が違うからな」
「そう、でもいい経験だったわ」
「ならよかった」
こうしてアイリスの運命の時刻は残り僅かとなった。
俺は無くなる寸前まで胸の苦しみがきたら治す役目として、ずっとアイリスの家で待機している。
そして、ついに終焉の時刻がやってきた。
最後は母親のランカさんに看取られながらアイリスは亡くなった。
ランカさんが泣く姿を見て俺も自然と涙が零れる。
すこしの時間しか一緒にいなかったが、やはり出会った者が亡くなる瞬間を見るのは辛いな。
俺はランカさんを残し1階に移動した。
亡くなったとは言え、最後に娘と語り合いたいだろうから…。
一階に行くと皆が神妙な顔つきで待っていた。
「息を引き取ったよ」
「そう…ですか」
「スキルってなんなんだろうな?」
「なんなんでしょうね」
「アランと変わらない歳だな」
「そうです…よね。孤児の時は生きることで精一杯だったので考えても見ませんでしたが、心に余裕があると自分だったらと考えてしまいますね」
「流石のミロード様でも無理だったのですね?」
「リーリア、俺をなんだと思っている。俺は神様ではないからな」
「私にとっては声を治していただいた時に神様にも見えましたよ」
「そうか…。助けてあげたかったな」
皆しみじみとしながら頷いている。
その後はランカさんとお話して依頼が終了となった。
最後にランカさんから「貴方が最後の依頼者で良かったわ、有り難う」と言われた時俺は人目を気にすることなく泣いた。
泣きながら一礼して帰ることしか出来なかった。
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