第70話 閑話 フウカ3
私は野営をしているミロードさんを見つけ歩み寄った。
「突然訪れて申し訳ありません」
「確か君はフウカだったかな?」
「そうです」
「こんな時間にどうした?」
「一つだけお願いがあって来ました」
「何かな?」
「無理は承知で言うのですが、明日からの旅は休憩の回数をすこしでいいので多くできないでしょうか?」
「その理由は?」
「今日の旅では私でさえついて行くのがやっとでしたので、私より小さい子はもっとキツイはずです。もちろん疲れたら馬車で休ませる場所を作っていただいているのも承知しておりますが数には限りがありますので」
私は必死にお願いした。
「俺が孤児にチャンスを与えた時のことを覚えているか?」
どの内容だろう。
あ、対価のことかな?
「何かに気付いたようだな?」
「お願いを聞いてほしいのなら対価を示せってことであってますか?」
「ああ。君ならわかるだろうが旅にも費用がかかる。その上冒険者の依頼も受けているから期間を過ぎれば違約金を支払わないといけない。それに見合うだけの対価を君は何を示す?」
えっ、依頼も受けていたの?
違約金に見合うだけの対価なんて無理だよ、私の体で足りるかな?
まって、彼は示すって言ったよね?
払うとは言っていない…。
「初めは私の体で支払おうとも考えていましたが、示すと言う言葉で変わりました。私の知識をもって全力で旅のサポートをさせて下さい」
「元貴族の知識でか?」
何故、私が元貴族だって知ってるの?
もしかして今更連れ戻しに来た?
「何故驚く?その喋り方で気づかないとでも思っているのか?」
あ、そうよね。こんな喋り方してる孤児なんていないよね…アハハ。
「あ、そうですね」
「その対価は要らない。他に欲しい対価が見つかったから君がその対価を払うなら先程の条件を呑もう」
えっ、要らないの?
私の体は要らないっていうの?
ちょっと待って、私は何を言っているの?
体を要求されるのが嫌で出てきたのに、何故私は自ら体で支払おうと考えていたの?
もしかして彼になら抱かれてもいいと思ったってこと?
あ、それどころじゃない、返事をしないと。
「はい、お願い致します」
あ、何を対価で払うか聞いてなかった。
「まだ俺は条件を言ってないのだが」
どうしよう。変なことを考えていたなんて言えないし…。
「貴方様は今まで見てきた大人達と違って信用しております。それに最悪この体でよければ差し出す覚悟で来ていますので」
よし、上手く誤魔化せた?
「そうか。なら対価として二つ貰おう」
「なんなりと」
「一つは君の過去を教えてもらう。二つ目はラングード都市に着いてから子供達の教養を君が教えることだが、いいかな?」
過去を聞いて投げ出されないかな?
貴族の元子供なんて面倒ごとでしかないよね?
「そんなことでいいのですか?」
「君は物の価値がまだ解っていない。情報や教養も一つの武器となる。今からの可能性が詰った君達なら尚更な」
情報は確かに大切よね。もし彼らが貴族の脅威を跳ね返すだけの力を持っていたら嬉しいな。
「情報の大切さですか、なら一つだけ教えていただけないでしょうか?」
「なんだ?特別に一つだけタダで質問に答えよう」
「私達は貴方様達の情報を何も知らずに着いていくと決めました。先程の言葉を聞いて敢えて情報を隠しているのだろうと感じています。私達の決断は合っているのかも解らないまま着いていこうと思わせた貴方様は何者なのですか?」
「先に一つ答えてくれ。解らないのに何故着いてきた?」
「一つは喋り方です。言葉を使い分け相手に気を使えるお方だったのでこのチャンスにかけて見ました。二つ目は警戒心が強くいつも脅えて過ごしていた子供が迷いもなく着いて行くと決めたことです。最後は私とすこししか年齢が変わらないはずなのに遥か遠い存在に感じてしまうオーラです」
「そうか。一言で言えばAランク冒険者だ」
えっ、Aランク冒険者って言った。
その歳で?
「たった数年で…、A…ランク冒険者…。す、すごい」
まってまって、じゃあ貴族の脅威からも…守ってもらえるかも…。
私の運を全部使い切ったかも。
あの時一歩目を踏み出した私を褒めてあげたい。
翌日から彼は本当に休憩を増やしてくれた。
今は商業都市に向かい2週間が経っている。
2週間が経てばいろいろなことが見えてくる。私は前の発言を後悔していた。
休憩が増える分、魔物の脅威が増えることに気付いていなかった。
もうこれで何度目の魔物だろう?
さらには現在は盗賊に襲われている真っ只中。
あんなことを言わなければ、盗賊に襲われることもなくもっと先に進んでいたかも…?
盗賊は大人達の5倍ほどの人数がいるだろうか?
Aランク冒険者と言えど5倍の人数を相手に私達を守るのはキツイよね?
本当にごめんなさい。子供達のことしか考えてなかった私がバカだった。
私が心の中で謝っている間に戦闘が始まった。
盗賊からの弓矢が私達に飛んでくる。
大人達は誰も動かない。
えっ、こんなところで死ぬのはいやー。
私は恐くて目を瞑った。しかし、一向に矢が当たる気配がない。
恐る恐る目を開けると2m手前の所で矢が何かに当たり落ちていく。
ミナミさんが「障壁があるから安心しなさい。後、これから貴方達を導く人達の姿を焼きつけなさい」と言われた。
そこからは瞬きを忘れるかの様に目を見開いて見ていた。
周りの子供達も興奮して声が聞こえる。
「す、凄い」
「あの鬼人族の人、魔法を切ったよ」
「ピンク色のお姉ちゃんの魔法がキレイ」
「甲冑の人がいると安心だね。痛くないのかな?」
たった3人だけで戦闘を支配している。
何て人達なんだろう。
ふと疑問に思いミナミさんに聞いてみた。
「ミロードさんは戦闘に加わらないのですか?」
「さぁ、どうかしらね。あの人は天才過ぎて何を考えているか解らないのよ。まあ、ただ一つ言えることはミロード様は誰よりも強いわよ」
あの三人よりも強いの?
今思えば、皆ミロード様って言ってる?
私はとんでもない人に拾ってもらったのではないだろうか。
無事に戦闘も終わり、皆の視線はキラキラとした眼差しで、尊敬の二文字に変わっていた。
各言う私もずっと見惚れていたとだけ…。
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