第67話 憧れ
子供52人を連れての旅は大変である。
だが、せっかくの機会なので子供達と一緒に長旅を楽しもうと思う。
子供と言っても5歳から15歳くらいまでなので歩くスピードもまちまちである。
まあ、15歳は丁度大人の仲間入りの年なのだが…。
ついでに冒険者依頼にてラングード都市までの荷運びの依頼(馬車付)があったので一緒に受けている。
荷物をアイテムBOXの中に入れ馬車を空にしたことでその馬車に小さい子供を乗せることにした。俺達の馬車は子供達が疲れたら交代で乗って休む場所にしている。
子供達は外の旅も初めてなので始めは目を輝かせていたのだが、ずっと歩くにつれて辛そうにしている。
ここで俺はずっと子供達の様子を見ている。
一緒になって「キツイよー」と言う者や「休憩までもう少しだから頑張ろう」と励ます子供まで多種多様である。
その中で一人だけ、皆の顔の表情や歩き方を把握して声を掛けている者がいた。
その子供の名前はアランと言う子供で、目立った行動はしていないのだがギリギリのすこし前のタイミングで疲れている子供を上手く誘導して馬車に乗せているのだ。
ただ泣きわめくだけのまだ余裕のある子供には声を掛けていない。
俺から見ても凄く優秀だ。
こうして一日目はいろいろと子供達を観察するためにすこしキツイ行軍をしたが、先は長いので明日からは休憩を多くとりながら向かうことにしている。
また、途中に綺麗な景色や動物などがいれば見て可愛がりながら行くことにする。
通常の倍の日程となるだろうが、この期間にいろいろなことを覚えてもらう。
野営の仕方、料理の仕方、獲物の狩り方など得意分野に分けて教えていく。
夜はテントを何個も張るのだが、安いテントなので雨風が心配だったのだが、ここで以外にもナイトのスキルが役に立った。
守護結界を張ることで雨風を凌げるのだ。
ただ、広い面積を長時間張るのは魔力消費が激しいので薄く伸ばして結界を張る。
魔物の攻撃を受けると一瞬で割れるであろうことから大人組が夜営をする。
ナイトは朝と昼は休んで夜専用となり、その他にもう一人をローテーションで夜営をしてもらう。
初日は皆慣れていないだろうから俺がナイトと一緒に野営をしていたのだが、皆が寝静まった頃合いに一人の女性が尋ねてきた。
「突然訪れて申し訳ありません」
「確か君はフウカだったかな?」
「そうです」
「こんな時間にどうした?」
「一つだけお願いがあって来ました」
「何かな?」
「無理は承知で言うのですが、明日からの旅は休憩の回数をすこしでいいので多くできないでしょうか?」
「その理由は?」
「今日の旅では私でさえついて行くのがやっとでしたので、私より小さい子はもっとキツイはずです。もちろん疲れたら馬車で休ませる場所を作っていただいているのも承知しておりますが数には限りがありますので」
孤児の子供の喋り方じゃないな。貴族の子か?
「俺が孤児にチャンスを与えた時のことを覚えているか?」
フウカは真剣に考えている。
「何かに気付いたようだな?」
「お願いを聞いてほしいのなら対価を示せってことであってますか?」
この子は賢い。そこら辺に居る大人なんかよりもずっと。
最年長の15歳の子だけは覚えているので、フウカの年齢を覚えていないってことは身長や発育からしても13歳か14歳だろう。
「ああ。君ならわかるだろうが旅にも費用がかかる。その上冒険者の依頼も受けているから期間を過ぎれば違約金を支払わないといけない。それに見合うだけの対価を君は何を示す?」
「初めは私の体で支払おうとも考えていましたが、示すと言う言葉で変わりました。私の知識をもって全力で旅のサポートをさせて下さい」
へぇー、いい心掛けだ。
「元貴族の知識でか?」
フウカは驚いている?
「何故驚く?その喋り方で気づかないとでも思っているのか?」
「あ、そうですね」
「その対価は要らない。他に欲しい対価が見つかったから君がその対価を払うなら先程の条件を呑もう」
「はい、お願い致します」
「まだ俺は条件を言ってないのだが」
「貴方様は今まで見てきた大人達と違って信用しております。それに最悪この体でよければ差し出す覚悟で来ていますので」
たった数日の期間で信用できるのか?まあ、本人が信用してくれるならいいか。
「そうか。なら対価として二つ貰おう」
「なんなりと」
「一つは君の過去を教えてもらう。二つ目はラングード都市に着いてから子供達の教養を君が教えることだが、いいかな?」
「そんなことでいいのですか?」
「君は物の価値がまだ解っていない。情報や教養も一つの武器となる。今からの可能性が詰った君達なら尚更な」
よし、もともと休む回数は増やす予定だったからラッキーだったな。
思ってもいなかった収穫もあったし一石二鳥。
「情報の大切さですか、なら一つだけ教えていただけないでしょうか?」
「なんだ?特別に一つだけタダで質問に答えよう」
「私達は貴方様達の情報を何も知らずに着いていくと決めました。先程の言葉を聞いて敢えて情報を隠しているのだろうと感じています。私達の決断は合っているのかも解らないまま着いていこうと思わせた貴方様は何者なのですか?」
「先に一つ答えてくれ。解らないのに何故着いてきた?」
「一つは喋り方です。言葉を使い分け相手に気を使えるお方だったのでこのチャンスにかけて見ました。二つ目は警戒心が強くいつも脅えて過ごしていた子供が迷いもなく着いて行くと決めたことです。最後は私とすこししか年齢が変わらないはずなのに遥か遠い存在に感じてしまうオーラです」
「そうか。一言で言えばAランク冒険者だ」
フウカは目を見開いて驚いている。
「たった数年で…、A…ランク冒険者…。す、すごい」
こうしてフウカとアランという優秀な子供達を発見することが出来た。
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