第65話 一度のチャンス

俺は近くに大人がいない子供達に質問をした。


「この区域には大人が少ないけど何かあるの?」


「たまに来てくれてるよ」


「そうそうたまに助言とかもしてくれる」


「貧民の大人達は何処にいるの?」


「向こうだよ。子供と大人で区域が分かれてるって聞いた」


「じゃあ、君達も大人になったら向こうの区域に行くの?」


「そうなの?わかんない」


なるほど意図的に住み分けをしているのか…。


それを監視する大人達が犯罪を犯さないように子供達を誘導しているのかな…。


ただ、貧民の子供の解決には何もなっていないけど、俺がとやかく言うのもお門違いだしな。


他の子供にも聞いてみる。


「何処で寝ているの?」


「屋根がある場所なら何処でも」


「そうなんだ。ちなみにスキルを使って何かしないの?」


「ここに居る子供達ははずれと言われたスキル持ちばかりだよ」


「誰にはずれって言われるの?」


「一般的に?わかんない」


「そっかー、有り難う」


確かに大したことのないスキルが多いのかもしれないが、使い方次第では化けそうなスキルもあるのに。


まあ、俺が責任もって面倒を見れるわけでもないので、見守っている大人に任せよう。


彼らなりに苦しみながらも頑張っているようだし…。


ただ、子供達が嬉しそうにご飯を食べている姿はいいな。


サラサやエターナが子供の世話をしている姿を見ると、いい母親になりそうだと考えてしまう。


子供かぁー、転生前は結婚していなかったので考えたこともなかったがどうなんだろうな?


日本と違って、お金があれば執事やメイドがいる世界なので何人の子供を作っても面倒見れるのが利点だよな。


日本にいる時は老後の不安しかなかった。


まあ、今はこの世界を満喫したいから、コウノトリが運んで来たら程度で考えておこう。


こうして子供達に食事を振る舞いながら簡単な情報を聞き出した。


俺達が帰ろうとすると、一人の子供が聞いてきた。


「また来てくれる?」


どうしようか迷った結果、俺は一度だけチャンスをやることにした。


「いいか良く聞きな。無償で毎度毎度恵んで貰えると思うな。」


俺は一人一人の目を見て話す。


「食事が欲しいなら対価を示すしかない。全員で一つのことでもいいし、個人でこれならやれるってことでもいいから考えておけ」


俺は1週間後にまた来ることを伝え帰った。


「ミロード様は厳しいのか優しいのか分からないな」


「タダで手に入ると考えるようならロクな大人にならないからな」


「まあ、そうだな」


「セツナ一つ聞いてもいいか?」


「なんだ?」


「戦闘スキルがない者はやはり冒険者になると厳しいのか?」


「死ぬ覚悟があるなら問題ないが、それ以外は荷物持ち程度がやっとだろうな」


「そうか。ちなみにあそこの場所で農業をしていないのは理由があるのか?」


「ある見たいね。作物を作っても盗まれるし、その上畑の面積に応じて税金がかかるそうよ」


「なるほど、場所と孤児の集まりが今の状況を生むのか」


「どうにかできそう?」


「はっきり言って無理だな」


何故か皆が驚いている。


「ミロード様でも無理なの?」


「ナイトはどう思う?」


「全ての問題を解決するには魔法大国の法や仕組みが絡んでくるでしょうから難しいでしょうね」


「だそうだ。」


ミナミは剥れている。


「それでもミロード様なら出来るのでは?」


子供達に触れて、ミナミは情が移ったのだろう。


「ミナミにその覚悟があるなら出来るかもな」


「ど、どう言うこと?」


「一から村や町を作ればいい。簡単なことじゃないとだけ言っておこう」


ミナミは下を向き俯いている。


「俺にはその覚悟はない。一人や二人なら面倒を見れるがあの人数を全員面倒を見るとなると責任が持てない」


「そ、そうだよね…」


「だからチャンスを与えた。自分の足で一歩を踏み出した者だけに道しるべを残そうと思う。それ以降は本人次第だ」


いくら転生者と言えど神ではない。


ましてや与えるだけではいずれ集団は崩壊するだろう。


その結果、不平不満が飛び交うようになる。


だからこそ一歩目を踏み出し自らの意思で歩くことが大切なのである。


巡り合えた運を掴むも離すも己次第だ。


もちろん子供にその選択を考えさせること自体が鬼であることは重々承知である。だが、死と隣り合わせの異世界だからこそ必要なのだ。


俺個人の主張は終わったので、皆とどうしたいのか一緒に考える。


お金も無限にあるわけではない。


やはり転生者組とこの世界で育った者とで感情の差があるみたいだ。


セツナ達はこれが当たり前と認識しているので、チャンスがあるだけ幸せだという認識だ。


一方のミナミ達は一人でも多くの者を救える環境を作れないか必死に考えている。


子供達の一週間の猶予のはずが、逆に大人達の考える猶予に変わってきている。


後は、孤児を見守っている大人達がどうでてくるかも分からない。


炊き出しの帰りに接触してくるかと思っていたのだが、当てが外れた。


こうして魔法大国に来たものの俺達はずっと談義をしている。




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