第53話 スタンピード3
町の中では兵士達が食事を食べながら盛り上がっている。
「なあ、虹の魔法を見たか?」
「ああ、凄かったな」
「俺は神様が現れたかと思ったぜ」
「あ、俺も思った」
「もうダメだって思った瞬間の出来事だったからな。俺なんて虹の不死鳥を見た瞬間涙が溢れでた」
「私もよ」
「それに超級とも思える回復魔法にも驚かされた」
「それを言うなら前方で無双してた鬼人族も凄かったわよ」
「確かに」
「全て奇跡としか思えないけど、俺的には全て計算され尽くしたような連携や戦略が凄いの一言だった」
「あ~、そう言われればそうね」
「あれを全て狙って計算通りなら、もはや人じゃないわね」
そんな会話を聞いているコーズも同じことを考えていた。
本当にあいつは人なのか?神が遣わした者と言われても今なら信じるぞ。
そんなことを考える余裕がある程、皆気力が回復しているのだろう。
数時間の休息を挟み私兵団は親衛隊と合流した。
親衛隊は山の麓から溢れ出る魔物に苦戦しながら耐えていた。
それもその筈、初級ダンジョンの魔物とは違って中級の魔物も混じっている。
オークや骨の骸など一撃で倒せない魔物が増えたからだ。
さらには大きな蜂の姿をしたビーツなどの空を飛ぶ魔物が厄介極まりない。
そんな姿を見て、私兵団もすぐに戦いに参加する。
基本的に親衛隊が防御陣営を維持させ、ミリオンの兵達が三位一体となって中級の魔物を殲滅させていく。
さらに親衛隊と同じく増援に来た300もの兵を予備隊としてしている。
サンターナの兵は休息要員としてローテーションで疲れている兵と変わり休息させる。
もちろん負傷者はミロードが回復させ、危険な魔物はセツナが退治する。
さらに魔物の数が密集してくるとリーリアの精霊魔法で殲滅することで、絶妙なバランスでスタンピードをやり過ごしている。
もうどれくらい経っただろう?
夕焼けと共に空の色が変わる時刻と言うのだけは解る。
山の麓から魔物の数も減っているとの情報と共に一つの情報が入ってきた。
Aランク上位と言われている魔物・地竜の姿が見えたそうだ。
地竜は二足歩行の飛べない竜と言われることからも竜の中では一番弱いとされている。
だが人から見れば災害級とも言える魔物だ。
全長10メートルはあろう大きさで、長い尻尾を振るうだけでミリオンの城壁なら崩れるほどの威力がある。
唯一の救いは高ランクの冒険者ならばスピードは勝ると言える点だけだろう。
「なるほど、今回の山の麓のスタンピードはあいつが原因か」
「そうだろうな。人為的な何かがなければな」
「そう願うよ」
「あの魔物はどうする?俺でも何とかなるが…」
「セツナは他の魔物をお願い。チラホラとゴブリンリーダやゴブリンアーチャなども見えるしね。それにあいつは俺一人で戦ってみたい」
「承知した」
俺達以外の兵達は地竜を見た瞬間絶望している。
「こんなの最悪だ」
「疲れ果てた体で地竜なんて無理だ」
「疲れてなくても全員で倒せるかどうかと言うのに」
そんな声が聞こえる中、コーズ殿が俺を見た。
俺は大丈夫と言う意味でピースサインを出した。
それを見たコーズは皆に指示を出した。
「うろたえるな、俺達には虹色の不死鳥使いがいる。山の麓の魔物の数は減ってきている、残りの魔物が俺達の役目だ。自らが出来ることをやるだけでいい、勝利は目前だ最後まで気を抜くな」
コーズの激が好を制した。
「そうだ、俺達には奇跡を起こせる者がいるんだ」
「そうね、私達の役目を果たしましょう」
「本当に有り難う」
「この町を宜しく願いします」
いつの間にか俺はこの町の運命を託され、お願いされる形となった。
悪い気分じゃないね、そう言うことならいっちょやりますか。
俺はセツナとリーリアを連れて地竜に向かう。
「目の前で見るとでかいな」
「気をつけて下さいご主人様」
「了解。地竜以外は頼んだよ」
二人は頷き、俺は地竜との一騎打ちとなった。
地竜は俺に向かって突進してきた。
俺はヒョイッと躱し、躱しざまに足に一太刀を入れる。
薄っすらと傷が入った程度だろうか。
やはりA級の魔物となると硬いなぁー。
地竜は振り向きざまに尻尾を振ってきた。
俺は上空に飛び跳ねながら炎剣術で焼き切るが、先程よりも見れ目が見える程度である。
どうするかなー。地道に切っていくか?それとも魔法を放つか?
そんなことを考えていたら、尻尾を振った反動で逆の方向からさらに尻尾を振ってきた。
不意を突かれた挙句、あまりの速さに手で防御するのがやっとである。
俺は吹き飛ばされる。
地面を転がりながら最後は受け身をとる。
「いったぁー」
防具は壊れ、口からは血の味がする。
やはり慢心はダメだね。
一歩間違えば死ぬ可能性だってある。
本気で行こう。
風精霊ウィンにも力を借りて、気精の複合をする。
俺は手をピストルの形にさせ精霊魔法を複合させた。
風と水が混じり一点に集中させる。
弾け飛べ「ウィズ・ブレッドガン」
俺の指から放たれた直径2m程の魔法がもの凄いスピードで地竜に飛んでいく。
地竜は躱す余裕もなく、人で言う胸の中心付近に風穴を空け後ろ向きに倒れた。
反動で俺も後ろに飛ばされるが、以前に比べると平気である。
倒してみると呆気なかった。ただ、今回は反省する点も多い。
そんなことを考えながら親衛隊の元へと歩いて戻る。
ちなみに地竜が討伐されたことで魔物達は別々の方向に移動し始めた。
町に向かってくる魔物だけを兵士達が対応し殲滅する。
こうして何とかスタンピードは終わりを告げた。
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