第51話 スタンピード

疲労が私兵団を襲う。


スタンピードの終わりをまだかまだかと持ち詫びる。


そんな中、初級ダンジョンから溢れる魔物の数が少なくなってきたと報告が聞こえた。


待望の報告が歓喜の叫びで木霊する。


そんな喜びも束の間、最悪の状況がやってきた。


チラホラと山の麓からくる魔物達が、ついに溢れんばかりの群れとなって町に向かってきているそうだ。


さらには中級の魔物の姿も見えるそうだ。


終わった。


そんなことを私が考えるのだから、兵達の気持ちも同じであろう。


「こんなの無理だ」


「これ以上どうしろって言うんだ」


「もう手を上げるのがやっとだと言うのに」


「うわぁぁぁーーーーー」


叫び声が響き渡る。


最悪の状況でも兄上は鼓舞する。


「まだだ!町の中にはお前らの大好きな家族がいるんじゃないのか?


町を蹂躙されてもいいのか?家族を殺されてもいいのか?」


兄コーズの言葉でギリギリだが兵の心に火が灯る。


「そうだ、俺にはかぁちゃんがいる」


「俺にも愛する子供がいる」


「俺の嫁は世界一だ」


「俺が死んでも家族だけは守って見せる」


次々に気力を振り絞って懸命に戦う。


このコーズの鼓舞がなければ全てが終わっていただろう。


その鼓舞に答えるように力を振り絞って耐え凌ぐ。


もちろん体力的には限界である。


それを気力で凌いでいるに過ぎない。



気力を振り絞って、なんとか一時間耐えた。


今まで良く頑張ったと言えるだろう。


終わりは唐突にやってくる。


一人、また一人と前線を離脱していく。


三列あった列は一列となり、誰か一人でも倒れれば雪崩式にそこから魔物が門に向かっていくだろう。


そしてついに陣形が崩れた。


だれもが諦め、目が虚ろになっている。


かく言う私も人生の終わりを痛感したわ。


神様っていないのかしら?


一生のお願いだから、神様助けて下さい。


私は神様に祈ったが魔物の群れは門に向かっている。


門が破られれば、この町も私の人生も終わりね。


友のためにどんなに頑張っても、最悪の結末しかこないの?


こんなの酷いよ。


神様がいないなら誰か助けてよ。


お願い、助けて。


心の叫びが一人の男性を思い浮かべさせる。


「ミロードーーーーーーー、私を助けてぇーーーーーー。」


アクアの叫びが響き渡る。


その時、奇跡が起きた。


天は私を見捨ててはいなかった。


門の上からはっきりと見える。


上空に光輝く虹色の不死鳥の姿が…。




ミロード視点。


さらに数日、馬車は走り続ける。


すこしでも早く到着するために馬に回復魔法を使う。


ミロードのこの行動がなければミリオンの町が全滅していたかもしれない。


俺は時折り望遠の魔道具で王都の方向を覗く。


そして、ついに見つけた。


馬車をその方向に向かわせる。


数時間後、見慣れた装備を纏った軍隊がいた。


1人の兵に尋ねる。


「ダンダン副隊長はいるか?」


その兵はダンダンを呼んできてくれた。


「よう?奇遇だな、ダンダン」


「お前なぁー、よくその口が言う。なんだあの手紙は」


「何って、報告しただけだけど…。姫様の恩人セツナがスタンピードに向かうってね」


「そんなこと知ったら姫様に報告するしかねぇだろうが。おかげで俺が派遣されたじゃねぇか」


「だろうね。いやー、ダンダンと一緒に戦えるなんて楽しみだなぁー」


「全て計算通りかよ、ちくしょう。」


「まあ、まあ、場合によっては名声は上げるから頼むよ」


「まあ、姫様の評判が上がるなら頑張るが…。ただ、見ての通り親衛隊300と追加で志願者を募って集めた300人の計600人しかいないぞ」


「500人もくれば御の字だったから十分だよ。それに人数を集め過ぎても馬が足りなくて間に合わない可能性があったから最高の結果だね」


「それよりもスタンピードは大丈夫なのかよ?ミリオンの町は兵が少ないはずだ」


「そうなんだ。まあ、サンターナの兵次第じゃないかな?」


ダンダンは驚いている。


「サンターナは兵を出したのか?」


「そうみたいだよ。王都の貴族は誰も兵をだしていないのにね」


「現在、派閥争いが激しくてな。貴族達は無謀なことに兵を出して足枷をつけたくないのさ」


「これだから貴族は嫌いなんだよ。そんな中まともな貴族に死なれたくはないからね」


「俺まで巻き込んで勝算はあるんだろうな?」


「間に合えばね。ただ、予想よりも魔物が多い可能性があるからダンダン達に期待」


「俺達は姫様と隊長から無理そうならセツナ殿を連れて帰れと言われてるからな。すこしでも無理だと思ったら逃げるからな」


「セツナ、大切にされてるね」


「ミロード様が逃げないなら、俺は死地にだって付き合うぞ」


「流石セツナ。そう言ってくれると信じてたよ」


「このやろー。俺達も捨て身でやるしかねぇじゃねぇか」


こうして親衛隊と共にミリオンの町に向かうのであった。















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