第23話 鬼人族
隠し扉を開け中に入ると思いの他綺麗な部屋があった。
イザーム様なりのこの国の恩人に対する対応なのだろうか。
そして、目の前には片手片足の鬼人族が…いた。
国の英雄はどんな感じかなー。
………。
めっちゃ片足で走ってるぅぅ~~~~~~。
「よお、ワンさんここに来るなんて珍しいな。どうだい、大分早く走れるようになっただろう?」
「ええ、始めの覇気のない死人の時に比べれば別人ですね」
「まあ、あの時は体がこの有様なのに裏切られた直後だったからな。もうどうでもよくなって死のうと思っていたんだが、なかなか死なせてくれない上に暇な環境にいるとこうなるさ…ハッハッハ」
豪快に笑う姿を見て本当に奴隷かと疑うほどである。
「お、そう言えばもう一人客人がいると言うことは買い手か?」
「ええ、見定めにきていただきました」
「そうかそうか…、俺を買わないか?見ての通り今では片足で走れるようになったから一通りの生活は出来るぜ」
この人を見ていると何故だか元気がでてくる。
「あの、二つ聞いてもいい?」
「おお、なんでも聞いてくれや」
「一つ目はもし奴隷から解放された場合は何がしたい?」
「う~ん、なんだろうな?あ、以前、この奴隷商にいた精霊族の子にお礼を言いに行きたいな。何処かに買われたんだろう?」
ワンさんが返答する。
「ええ、冒険者本部が買い取りました」
「だそうだ。もう一つの質問はなんだ?」
「もし昔見たいに健全な体があった場合は何がしたい?」
「この状況になって初めて思い知ったことが多くてな。同じような立場の奴に寄り添ってあげてえなぁ。まあ、昔見たいな体に戻ることがあれば、その奇跡を起こしてくれた奴に忠義を尽くだろうがな」
「そうか、裏切られた者のところに行かなくていいのか?」
「始めはもちろんムカついたが、どの道いつかは金が無くなって奴隷になってたさ。そいつが金を盗んだおかげでむしろ今の生活があることを考えればラッキーだったのかもな」
俺が同じ状況なら笑ってこんな言葉は言えないだろう、本当に凄い人だ。
この人ならば最悪俺の奴隷じゃなくなっても世の中の悪影響にはならないだろう。
俺はにこやかにワンさんに値段を聞いた。
「ちなみにお値段を聞かせてほしい」
ワンさんは驚いた様子で値段を言ってきた。
「条件の合う方はなかなかいませんので、金貨1枚です」
「えっ、国を救った鬼人族がたった金貨1枚ですか?」
「ええ、そう言う契約でイザーム様と決めていますので」
「そうか、じゃあ契約でお願いする。鬼人族の方もそれでいい?」
「ああ、俺に何が出来るかわからんが宜しく頼む。あっ、ご主人様になるなら丁寧語の方がいいのか?苦手なので、慣れるまでは我慢してほしい?」
「別に今のままでいいよ。俺の方が歳下でしょうから」
その言葉を聞いた両方が目を見開いて驚いている。
「そ、それでは契約の内容はどうしますか?」
「うーん、そうだなー」
俺は考えた三つの内容を伝えた。
一つは契約者に危害を加えない。
二つ目は契約者の内容や秘密を人に喋らない。
三つ目は契約者に嘘をつかない。
この内容を伝えたところワンさんが待ったをかけた。
「その内容では奴隷が逃げる隙を与えてしまいます。命令は絶対とは言いませんが逃げないような契約内容にした方がいいです」
「別に逃げてもいいですよ。今の彼の状況で逃げたいと思うならばそれは酷い環境と言うことですから」
俺がそう言うと鬼人族の男は豪快に笑いながらこう言った。
「いいねぇー、気に入った。名前を聞いてもいいかご主人様?」
「ミロードだ、これから宜しくな」
こうして俺は鬼人族のセツナを奴隷として仲間にした。
ワンから奴隷紋か奴隷の首輪があるらしくどちらにするかセツナに選んでもらった。
動き易いように奴隷紋とのことだった。見える位置に奴隷紋を刻むのがルールらしいので手の甲に入れてもらう。
さらには料理などの世話係を一緒にどうかと言われたが、間もなく冒険者本部に向かうことになるため遠慮した。
冒険者本部に向かう馬車を一週間後に予約し、セツナの人となりや今の私生活がどこまでできるか観察した結果、問題なく生活できることにびっくりした。
もちろん片手片足なので料理などの細かい作業はできないが、誰の手を借りずに生活している。
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