第10話 レベルアップ

宿に戻り食事をとるとすぐに寝ることにした。


異世界では娯楽が少なく、遊べるお金は今はないので、起きるとすぐに朝食をとり、森に再度ゴブリンの討伐に向かう。


魔石やこん棒はアイテムBOXに収納している。


そうこうして、依頼をこなすこと3日。


また、急に体が軽くなった気がした。


力が漲り、なんと次からはゴブリンの戦闘では一撃目で気絶させることに成功し二撃目を突き刺し危なげなく勝てた。


明らかに強くなっているのを実感した。


虹の指輪の効果、成長能力値上昇の上昇値がいいのかもしれない。


ただ、ゴブリンの群れになると危険なのでソロのゴブリンを見つけては討伐することで依頼を達成していった。



気付けば7日目となり、アクア嬢の迎えの馬車がやってきて貴族街に案内される。


おしゃれなカフェで待つこと一時間、ようやくアクア嬢がやってきた。


「遅れてごめんなさいね」


「いえいえ、貴族ともなるとお忙しいのは承知しておりますので」


「そうでもないわ。今回は急遽事情があってね」


「そうなんですね、ところで何故7日目に私を呼んだのですか?」


「丁度宿の支払いが終わるからよ。貴方一人で冒険者としてやっていけそう?」


「えっ、その確認のためだけに時間を作っていただいたのですか?」


「そうよ。私が呼んだのだから当たり前でしょう」


俺は驚いた。小説の中の貴族とこの世界で聞いた貴族は対して変わらないと噂で認知していた。


傲慢な者、偉そうな者、プライドや見栄を重視するものがほとんどだと聞いていたが、伯爵家の令嬢であるアクア嬢は人としてできているなんて…。


「気にかけて頂き有り難うございます。何とか宿代や食事ができるところまでは…」


「そう。駆け出しとしては十分ね。ただ、装備や回復薬など今はお金がかかるだろうから、このお金でしばらく頑張りなさい」


そう言うとアクア嬢の執事が袋をよこしてきた。


中を見ると、半年くらい生きていけるだろうお金が入っていた。


「えっ?何故、私にこんな大金を?」


「先行投資よ。貴方がいつか優秀な冒険者になった時に私が困っていたら助けてもらえるようにね」


「こんなことをしなくても、アクア様が困っていれば助けますよ」


「言葉だけで何度も裏切られた経験からの行動よ。それに今回も…」


「何かあったのですか?」


アクア嬢は悩んだ顔をしながらも話しだした。


「私の一番中のいい子が盗賊に襲われたのよ。誰かが情報を伝え私に嫌がらせをするために」


そう言うとアクア嬢は唇を噛みしめた。


「どんな嫌がらせなのですか?」


「子爵家の令嬢が盗賊に指を落とされ、命は無事に返されたわ。表面上は金品や馬を奪って盗賊の仕業としてね。もちろん彼女以外は皆殺されたわ」


「どうしてそれが嫌がらせに?」


「エターナを殺すことができたにも関わらず、生きて返したのよ。私と仲良くするとこうなるって見せしめに指を落としてまで」


「そう、なんですね。指は治らないのですか?」


「切り落とされてから時間がかなり経っているから無理ね。パーフェクトヒールを使える者かエリクサーと呼ばれる伝説の秘薬でもない限り無理ね」


「その令嬢は今?」


「昨日から私の家で心のケアをしているわ。もう人生が終わったと言って泣きじゃくっているわ。彼女が泣き疲れて寝ている間に来たから今日は遅れたのよ、ごめんなさいね」


「遅れたことは大丈夫なのですが、ちなみにその令嬢は心の綺麗な方なのですか?」


「いきなりなによ?ええ、とても優しくて聡明な子なのになんで…」


アクア嬢は涙を溜めながら再度唇を噛みしめた。



ミロードは真剣な顔で考え事をする。


アクア嬢の声が聞こえない程に今後のことも含めて考える。


「ねぇ、」


「ねぇってば、」


「聞こえないの?」


俺はやっと声が聞こえて我に返る。


「申し訳ございません、考え事をしていましたので。すこしだけお役に立てるかもしれませんので、よかったら彼女に逢わせていただけないでしょうか?」


「逢わせることは可能よ。ただし、彼女を傷つけることがあったら許さないわよ」


「ええ。内容は聞かないのですか?」


「藁にも縋る思いよ。それに内容を聞くとその言葉に期待して、ダメだった時に気が狂いそうになるから辞めとくわ」



こうして俺はアクア嬢の屋敷に案内され、指を切断されたエターナ嬢の元へやってきた。

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