第5話 水の都サンターナ

執事としての勉強や準備を整えているとあっという間に一ヶ月が経った。


俺は馬車に乗って水の都サンターナの街に向かっている。


その馬車の中でバーバラから言われたことは一つだけだった。


お披露目会では、男爵家の次女ともなればバカにされる世界だから大人しくしておいてねとのこと。


また、サンターナの街は伯爵家が統治している街なので、伯爵家以上の貴族は来ないらしい。


伯爵家の下には子爵家と男爵家になるのだが、その中でも女性の待遇は低いらしい。

さらには、魔法を使える者や貴重なスキルを持つ者が優遇される。

バーバラのスキルは火魔法なのだが未だ魔法を放つことが出来ずにいることから自信を無くしている。


この世界の魔法使いは貴重とされ、ダブルやトリプルの属性を扱えるだけで稀有な存在として尊敬されるそうだ。


そう、俺はこの情報を転生直後に頭に入ってきたので魔法を中心に覚えたいと考えている。


そして、魔法の使い方は魔力操作と知識とイメージ力で決まるそうだ。


本来貴族なら家庭教師を雇って勉強するそうだが、貧乏貴族のバーバラにはその余裕がないのだろう。


その点俺には知識とイメージ力は前世の知識があるので魔力操作を極めれば問題ないとされる。

そして、バーバラに無理言って暇な馬車の中で魔力操作に関する本を読ませて欲しいと頼んでいたので今は一生懸命に勉強している。

もちろん魔力操作を覚えないとフェニックスを発動することも出来ないので必死だ。


そうして俺は本に夢中になっていると無事にサンターナの街に着くことができた。バーバラ一向は城門をくぐり抜けるとパーティ会場へ向かった。


水の都と言うだけあって街を囲むように湖があり、長い橋を渡り城門にたどり着く。

この景色を見るだけでも感動ものである。


初めての街の城門や街の雰囲気に興味津々であったが会場が近づくにつれて俺は執事の顔へと戻っていく。


バーバラが貴族証を見せて会場に入るとそこには色鮮やかなドレスやタキシードを来た貴族の子供達が大勢いた。


街周辺の村や小さな町の貴族しか来ないと聞いていたのでビックリである。


何でも村を治める男爵は大勢いるのだが、それ以外にも財力のある商人の子供や経営者の子供も参加しているそうだ。


それならばバーバラがバカにされる心配も減るのではと考えていた矢先に一人の男性がバーバラに近寄ってきた。


「よぉー、バーバラ」


「お久しぶりです、モーリー様」


「俺様の愛人にしてやるって手紙を送ったのに、まだ返信が来てないぞ」


「まぁ、そうだったのですね。私の手元に届いておりませんでしたので初耳でございます」


「そうだったか。もちろん返事はイエスでいいだろう?子爵家の俺様が男爵家の次女を貰ってやるって言ってるんだから感謝するんだな」


バーバラは眉間に皺を寄せながらも、

「お父様がすでに婚約者を決めている見たいなので申し訳ございません」


「な、なんだと?そんな話は聞いてないぞ」


「私に言われても困ります」


「ちっ、確認しておく」


そう言うと金髪のモーリーは何処かへ行ってしまった。


モーリーが立ち去った後にバーバラは俺に伝えてきた。


「あんな輩ばかりだから嫌になるわ」


「縁談がくるだけいいのでは?」


「あきらかに愛人って言われてるのに?」


「綺麗な顔をしてるからこそ、愛人としてでも欲しいと思われているのですよ」


「貴方、そんなにポジティブだったかしら?貴族の中では中の上ってところよ。強いて言えば、みんなの視線は胸ばかりを見ているのは気のせいかしら?」


「客観的に状況を把握できるとは流石でございます」


「なんか、貴方をぶっ飛ばしたくなった気分よ」


「お嬢様、暴力反対でございます」


そんな会話をしていると、二人の会話を聞いていた一人の女性が会話に入ってきた。


「フフフ、執事と楽しそうにお話しをしていますわね」


「どこが!」


バーバラは条件反射でつい言葉が先にでてしまった。


お相手の顔を見てワナワナと震えるバーバラ。


「し、失礼いたしました。ア、アクア様」


「そう畏まらないで。伯爵家とは言え偉いのはお父様であって私ではないのだから。ねぇ、そう思うでしょう執事君?」


伯爵令嬢に訪ねられたことにビックリしたが冷静に対応するミロード。


「アクア様もなんと視野の広いお方だと感服致します」


「それは肯定と受け取っていいのですのよね?」


アクアは真剣な表情で聞き返してきた。


バーバラは自分のみならず執事の非礼を詫びようと声にだそうとするが伯爵令嬢に手で静止させられる。


それを見た俺は一息吐いてから答える。

「私は肯定も否定もしておりませんが…、強いてどちらかと問われるならば否定させていただきます」


アクアは残念そうな顔をした。


「そう、君もおべっかを使うのね、ガッカリだわ」


「こちらこそ、もっと聡明な方と思っておりましたが検討違いでしたか」


「それはどういう意味ですの?」


「アクア様が言葉遊びの真意も汲み取れないとは思っても見ませんでしたので。私は強いて言えば否定を選びましたが、それは視野の広いアクア様の考え方は人として尊敬できるお方だと思って否定の発言をしておりましたが、ただ単に心から本音で話せるお友達をお探しだったとは残念です。」


まさかの返答にアクアは目を見開いて驚いている。





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