第73話 レイの上級魔法

 カルタナ近郊のオーガの群れとオーガキングが出没したらしい。

 近くには村もあり、討伐依頼がギルドから出された。


「魔法使いになったレイの力の見せ所だね」


「私がやるのね、まあ今回もできるだけ頑張ってみるわ」


「うむうむ、頑張るのじゃぞ!」


 成人となった事でレイもギルドに登録することができるようになり、登録をおこなった。

 就職の儀を経て魔法使いになってからの初実践だ。

 ピンチになればもちろん助けるけれど、基本的には手出しはしないつもり。

 レイの今の実力ならできると思う。


 ♢


「ここらへんだな」


 依頼にあった森に到着する。


 達成条件は『オーガキング1体の討伐』、Aランクの依頼だ。


 レイがギルド登録をおこなったことで依頼を受けれることになったことにより合わせて2つの依頼を同時進行できるようになった。

 しかしレイは例に漏れずギルドランクは最低となるE、俺とのパーティの実績や今の実力があれどそれは関係ない。


 ランクが足りていないため依頼自体は俺が受けた。

 パーティを組んでいるのでレイが討伐してもクリアとなるため、面倒だがこれで申請の問題はない。

 レイの方でついでに『ゴブリン5体の討伐』という依頼を受注し、道中ですでにクリアしている。


「レイよ、緊張しておるのか?」


 ファフニールの言葉に彼女を見ると確かに少し震えている様に見える。

 大丈夫かな、あんまり緊張とかはしないタイプと思っていたけど……。


「違うわよ、なんだか少しワクワクしてしまって……武者震いとはこういうのをいうのかしらね」


「ハッハッハ、レイが武者震いとは変わったものだな!」


「そうかしら……いえ、そうかもしれないわね」


 今までのレイはいつも仕方なく戦っている感じだった。

 それがワクワクするだなんて……きっとお父さんと同じ魔法使いとなったことで意識が変わったんだろうな。


「じゃあいくよ」


 ♢


「レイ、頑張って!」


「あなた達も――いえ、心配は不要ね」


 森の開けた場所にオーガ達がいた。

 自ら木を切り拓いてここを拠点としているようだ。


 頭部に2本の角があるのが特徴の魔物であるオーガ。

 体は人間に似ているが2メートルは超す背丈を持ち、皮膚が赤くかなりの筋肉質だ。

 黄色く釣り上がった眼光が光り、口から鋭い八重歯が見える。


 そしてその中でも倍ぐらいの一際大きく青い個体、それがオーガキング。

 オーガとは違い角も1本である。

 いわばオーガは赤鬼、オーガキングは青鬼とでもいったところか。


「じゃあいくよ!」


 10体以上はいるオーガの群れに短剣を構えて飛び込む。


「グギッ!?」


 まだ戦闘態勢が整う前の不意打ちで2体倒す。

 そして他のオーガの気を引き森の中へと戻る。


 雄叫びを上げ後を追ってくるオーガ達。

 オーガキングもこちらに向かってこようとする。


「――あなたの相手は私よ」


 レイのファイアボールを背に受け、オーガキングの標的が彼女に変わる。

 よし、狙い通りにオーガを引き離し、オーガキングとレイの1対1にもっていくことができた。


 あとはオーガを倒し、レイの戦いぶりを見よう。


 ♢


「――よし、これで全部だな」


 オーガを倒し、辺りにもいないことを確認する。


「さてどうなってるかな?」


 戻ろう。

 一応念のためファフニールを残しているから問題はないだろうが、どんな戦いをしているのか気になる。


 耳には爆発音や叩きつける音が聞こえてくる、きっとまだ戦闘中だ。


「――ファイアレイン」


 開けた場所に戻る。

 丁度レイの魔法が展開されたところで、太陽を覆い尽くす様な蒼く巨大な炎の玉が出現した。

 そこから炎の球が幾多も絶え間なくオーガキングを目掛けて降り注ぐ。

 それは炎の雨というにはいささか暴力的であり、例えるならば流星群のさま


「すごいな……」


 俺に背を向け、レイと対峙するオーガキングはなすすべなく飲み込まれたちまち影しか見えなくなる。


 その様子につい言葉が漏れてしまった。


 オーガキングが倒れ、存在を証明する影が消え去るまで炎は燃え盛り、消えた跡には骨すら残らなかった。


「これが上級魔法なのね」


 隣に行くと、涼しげな顔で言い放つレイに苦笑する。


「いや、上級魔法でもこれは凄すぎるよ」


「うむうむ、中々良いものを見せて貰ったぞ」


 大会で見た魔法使いのものを思い出す。

 彼も強者だったのだろうが、あの時のファイアレインとレイのそれは質が違いすぎる。


「これはとんでもない怪物が生まれてしまったかもしれないな……」


「あなたにだけは言われたくないわよ」


 思わずこぼれた言葉に対し、レイは笑って返した。


 ♢


「おい、聞いたか?」


「ああ、流石にやばいよな」


 クエスト達成後、ギルドに戻ると何やらざわついている。

 それは、イスティのSランク冒険者4人がクエスト中に行方不明になったという凶報であった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る