第71話 母の誕生日
♢
「ただいま」
懐かしい我が家の匂いがする。
「――あら、おかえりなさい! 父さん、ロビンが帰ってきたわ!」
「そうか。おかえり、ロビン」
父さんはきっと手紙を送ったなどとは言わなかったのだろう。
俺がドアを開けるとエプロンをつけた母さんが興奮気味に迎えてくれる。
「あら? そちらは?」
落ち着きを戻した母さんが俺の後ろにいる2人に気づいたようだ。
「はじめまして、レイと申します。ロビンさんとは一緒のパーティで冒険をさせていただいています」
「我はファフニールじゃ! よろしく頼むぞ!」
礼節をもって挨拶をするレイに比べ、ファフニールは両手を腰に置いて少し上から目線で挨拶をする。
「あらあら、まあまあ。可愛い子たちね。はじめまして、ロビンの母です」
母さんは優しい笑顔で2人を迎えてくれる。
「まさかロビンがこんなに綺麗な彼女を連れて帰ってくるとは。やるじゃないか!」
それはきっとレイのことを言っているのだろう。
俺とレイを交互に見ながらニヤニヤと笑っている。
「ちょ! 父さん、俺とレイはそんなんじゃなくて……」
恥ずかしくなって慌てて否定する。
チラッと見たレイの顔が少し紅潮している。
その顔を見てついドキッとしてしまった。
「まあ、そう恥ずかしがるな。ロビンの父だ、息子が世話になっているみたいで。これからもどうかよろしく頼む」
しかし父さんも暖かく2人を迎えてくれてよかった。
まあ、俺の両親が冷たい対応をするとは思えないが。
「母さん、誕生日おめでとう」
俺は持ち物アイコンから白いダリアの花を取り出して母さんに手渡す。
「まあ! 素敵な花。ありがとう、ロビン」
嬉しそうに花を抱いてくれる母さん。
その姿をみて俺も嬉しくなり、自然と頬が緩んだ。
「お義母様、誕生日おめでとうございます。粗末なものですが」
レイもプレゼントを用意してくれたらしい。
綺麗なオレンジ色の宝石がついたネックレスだ。
花も選んで貰ったのになんだか申し訳ない。
「我からはこれじゃ!」
ファフニールからは大きなパイノップル。
2人とも俺が母が黄色やオレンジ系の色が好きと言ったから、それに沿ったものを選んでくれたようだ。
「いいのかしら。ありがとうね。なんだか感動しちゃうわ」
いまにも感動で涙がこぼれそうな顔をして喜ぶ母さんに二人とも嬉しそうだ。
「そうだ、今ご飯を作っているの。2人とも是非食べていってね」
そういってプレゼントをなおし、台所に向かおうとする母さん。
「あ! あの――」
それを咄嗟に呼び止めるレイ。
「よければ、私もお手伝いさせていただけませんか?」
「あら、いいのかしら? それじゃあお願いしようかしらね」
レイの提案を快く受け入れ、2人で台所へ向かっていった。
「お主も強いのか?」
「ん? 強いぞ。なんせこいつの父だからな!」
「そうか! さすが主人の父上じゃな!」
こっちはこっちで気づかない間に話をしている。
「主人?」
「ああ、我に打ち勝った人間じゃからな。ほれ、これが証じゃ!」
「あっ――」
油断した。
まずいと思った時にはもう遅かった。
ファフニールは自分の額当てを取り、その奴隷紋を父さんに見せてしまっていた。
外では外すなと言ったのに、俺の家族だということで緩んでしまったか。
「ロビン、これはいったいどういうことだ?」
「ち、違っ! これには訳があって――」
こういうことが一番嫌いであろう、静かに怒りの表情をみせる父さん。
こいつがドラゴンと明かさずにごまかすのが大変だった。
♢
「みんな、ご飯ができたわよー」
母さんとレイがいくつもの料理を持ってくる。
色とりどりの様々な豪華な料理が並び、テーブルが一気に賑やかになる。
そこには当然ファフニールの持ってきたパイノップルも切られて盛り付けられている。
「いただきます」
ひとしきり料理が並び、2人が着席したところで手を合わせる。
「レイちゃんとても上手なのよ。母さんとても助かっちゃったわ」
「いえ、お義母様に比べればまだまだです」
「レイちゃんがロビンのお嫁さんになってくれればいいのに」
「――ブッ!」
いきなりなにを言い出すんだ。
母さんの唐突な言葉に口に入った食べ物を吹きだしそうになってしまった。
「そ、そんな! 私……」
母の言葉に今までに見たことがないほどカッと顔を赤くするレイ。
「ちょっと母さん」
「ごめんなさいね。でも本当にいい子よ」
火照った顔を可愛く両手で仰ぐレイ。
否定しないのは、まんざらでもないからだろうか。
そう思ったら俺もドキッと意識をしてしまい、心臓の鼓動が速くなる。
しかし、あのレイだ。
残念ながら、そのようなことはないのだろう。
それからも賑やかな食事はすすみ、母さんの誕生日は今までで一番賑やかなものとなった。
母さんも終始嬉しそうで、俺もそれが凄く嬉しかった。
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