第69話 レイの成人式

 空には一つの雲もなく。

 美しい群青の中に眩しい白い太陽が輝く。

 まるで新成人を祝福をしているかのような、そんな気持ちのいい天気である。


「人がいっぱいなのじゃー」


 都市は朝から祝福モードの賑わいをみせている。

 カルタナ大聖堂の前にはすでにローブを着た新成人の他にも、保護者と思われる人も多く集まっている。


「それじゃあ、行ってくるわ」


 そんな中、俺のローブを羽織ったレイ。

 いつもとは違う雰囲気を醸し出す彼女はこの日のせいなのか、いつもよりも大人にみえる。


「ああ、いってらっしゃい」


「我もいくぞ!」


 レイが背を向け、歩き出すとファフニールもついていこうとする。

 新成人でいっぱいになる大聖堂――当然対象者以外は入ることができない。


 俺はファフニールの肩を掴んでとめる。


「なんじゃ?」


「ファフニールは入れないよ」


「むぅ……なぜじゃ! 楽しそうなことがはじまるのじゃろ?」


「今日大人になる人しか入れないんだよ」


 俺がそう言っても駄々をこねる彼女。

 それはまるで子供の様。

 前からそのような感じだが、レイはうまくこいつを諭せているんだなと実感する。


 というか、ファフニールって俺たちより相当歳上だよな。

 それにあの伝説のドラゴンだよな。

 こんな姿を見てきたせいで、その事実をつい忘れてしまいそうになってしまう。


「そうだ、今日は昼からパレードがあるんだ」


「パレード?」


「お祭りみたいなものだよ」


 そう、成人の日はイスティナでも大きな行事の1つ。

 一生を決めるといっても過言ではないのだからそれは当然だろう。

 なのでそれ相当の催しもおこなわれる。


「おぉ! 祭りじゃと? それは見ねばなるまい」


 去年の俺はそれどころじゃなかったから、見れてはいないがそれはそれは壮大なものだったらしい。

 そしてそれは式が終わる夜に本番がおこなわれるが、昼にも予行演習のようにおこなわれる。


「でも成人式に参加すると見れないなー」


 俺は目を輝かせる彼女に向かって心底残念そうな顔をつくって言う。


「むぅ、仕方がないのぅ……ここは主人に免じてパレードとやらに行くことにするのじゃ」


 少し迷ってはいたがなんとか誘導することに成功した。

 してやったり、俺はニヤリと笑んだ。


 ♢


 パレードは露店街も回る。

 丁度いいのでその時間まで時間を潰そうと彼女とここへ来た。

 すでにパレードが通る道には紐が張られ、人が集まってきている。


「おぉ、嬢ちゃん! パレードを見に来たのかい?」


「そうなのじゃ! すごいと主人が言ったのでな!」 


 いつしかの果物屋の露天商がファフニールに声をかけてきた。

 ファフニールの返しにウンウンと頷く商人のおやじさん。


「きっと嬢ちゃんも気に入るはずだ。ほれ、これでも食べて待っているといい」


「おぉ! 感謝するぞ!」


 いつものようにカットフルーツを餌付けされる彼女。

 満足そうに頬張りながら歩いていると、他の商人たちからもいろいろな物が渡された。

 久しぶりに彼女のこの都市での人気を再確認させられたな、と俺の手にもいっぱいになった串に刺さった食べ物の数々をみてしみじみ思う。


 そしてそうこうしていると派手な鳴り物の音が聞こえてきた。


「なんじゃ?」

 

「パレードがはじまったみたいだ」


「おぉ! どこじゃどこじゃ?」


 すでにパレードの見物客で良く見える位置は人で埋め尽くされている。

 どこか良く見える位置に行きたいが……。


「嬢ちゃん! こっちこっち!」


 さっきの果物商が呼んでいる。

 どうやら位置取りをしてくれていたようだ。

 

「ありがとうございます」


「なに、嬢ちゃんのためだ」

 

「どこじゃ? 見えんぞ?」


 なんと熱心なファンなのだろうか。

 そんなおやじさんを尻目に、ファフニールはパレードが通るのをちょんちょんと跳ねながら待っている。


 しばらくすると音がだんだんと大きくなっていく。


 そして、遠方から何人もの人がこちらに歩いてきた。

 その後ろには大きな見世物も姿を見せている。


「おぉ! これは壮大じゃな!」


 俺たちの前を通っていくのを興奮して見るファフニール。


「おぉ? あれは我ではないか!」


 大きな見世物の中にはレッドドラゴンのものもあり、その後ろには短剣を持った盗賊の姿。

 俺とファフニールが戦っている様子をあらわしているのだろうか。

 自分がいることを自慢するように俺を見てくる。

 負け、敵として描かれているのだが、それを理解していないのだろう。


 その他にも勇者と魔物の物などいろいろな物が通り、大きな賑わいを見せ、俺たちの前を全てが過ぎ去った。


 ファフニールはとても満足したように、終わってからもその興奮を俺に言ってくるのだった。


 ♢


「お待たせ」


 レイが大聖堂から出てきて俺たちと合流する。


「どうだった?」


「どうだったと思う?」


 そう言いながら彼女はニヤリと自分の杖を持つ。

 

 「やっぱり魔法使いだったんだね」


「フフン」


 杖を軽く振りながら鼻を奏でるレイ。

 希望通りの職業に就けて良かった。


 そして俺たちはレイも加わって、また夜におこなわれるパレードを見る。

 こういうのには参加をしなかった彼女だが、今は嫌な顔をせず参加する。

 本当に変化があったのだなとその度に実感する。


 夜の部も同じように盛大なパレードがおこなわれた。

 夜におこなわれる分、昼のそれとは少し違った印象をうけ、それはそれでいいものだった。

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