第67話 神と魔王

「どうして? 寝返る理由があったのかしら?」


「うむ、奴はこの世界から他の世界をも征服しようとしておった。それこそ神をも越えようとな」


 魔王が神を越えようとするか……ゲームでよくある話だけどこの世界もそうだったのか。


「流石にそれはやりすぎじゃ、この世界も滅びかねん。神もこの世界に干渉してドラゴンに力を授け、我らは戦ったのじゃ」


 凄い神話の話だ。


「それはドラゴンの時間にしても長い戦いじゃった。それでも倒すまでには届かず、魔王を封印することで戦いは終わった」


「その封印がドラゴンハートということだね」


 話が繋がったな。

 だけど神とドラゴン4体がかりでも倒せないなんて、その魔王はよほど強大だったんだろう。


 「うむ」と頷き、彼女は続ける。


「そこからは神の力をもって、我らが戦いによってめちゃくちゃになった世界を修復していくことになったのじゃ」

 

 それが創造神話の内容に繋がってくるのか。

 なんだか壮大すぎて想像がつかない。


「そして元々存在した魔物以外に誕生したのが、お主ら人間や生物」


「元々は魔物しか世界に存在しなかったということね」


「あぁ、この世界は魔王によって創られたからの」


「それだと魔王がこの世界の神ということなんじゃないか?」


 ややこしいけれど、今の話だとこの世界の魔王は創造神ということになる。


「そういう見方もできるな。じゃが神とはもっと上位の存在だったということじゃ」


 よくわからないけど、神はもっと凄い存在のようだ。

 いや、もしかしてその神って俺を転生させた神と同じなのか?


「なぁ、神ってこんな姿じゃなかった?」


 俺が会った神を思い出し、特徴を伝える。

 しかしファフニールは首を傾げた。


「残念じゃが、姿までは知らんのだ。我らが見えていたのは光の塊、実体がないものじゃった。だけどそれが圧倒的な存在じゃとわかったから神と名付け呼んでいるのじゃ」


「そうなんだ」


 なるほど、確かに俺が会った神も凄いオーラを纏っていた。

 同一の神かはわからないけれど、同じぐらい上位の存在なんだろう。


「で、そのドラゴンハートの一つが無くなってしまったと言うのが現状だ」


「なんと! それではスカーレット様の力は……」


 ケトは初めて知り、驚きの表情を見せる。

 あのケトがこんな顔をするなんてやはりよほどのものだ。


「案ずるな、元々封印のための魔力じゃ。今もお主を創った時と力はさほど変わらぬ、質量の差ぐらいじゃな」


 それじゃあファフニールはあの時より小さくなったけど強さは変わらないということか。

 勝手にあの時より弱くなっていると思っていたけれど、思い違いだったようだ。


「それは良かった」


「よくはないがの。他の封印がまだ生きておる内は大事にはならんはずじゃが、魔王に勝つ力は残っておらん」


 やっぱりそんなに強力な魔王を封じたものなら急いで見つけないとな。

 きっと封印分の魔力は魔王と戦った時にはまだ戦いに使っていたのだろう、その頃よりは弱くなっているとみて間違いなさそうだ。


「それで、あなたはドラゴンでありながら何故ギゼノンの領主になっているのかしら?」


 不意にケトに投げかけるレイ。

 確かに何故ドラゴンであるケトがわざわざ人間の一都市の領主になっているのかは気になる。


「言ったであろう、生命の進化を導く命を授かっていると。我は太古より時には王、時には賢者、そして時には厄災となり生命を導いてきた」


 なるほど、うまく紛れて使命を全うしてきたということか。

 ん? 待てよ?

 厄災、そしてあの変身の際に見えた姿は……。


「まさかバジリスクは……」


 俺が漏らすとケトはニヤリと微笑む。


「御名答。あれは我の創り出した魔物よ」


 ドヤ顔で言ってくる彼に少々ムッとしてしまう。


「なるほど、私たちは思ったよりも初めからあなたの手のひらで踊らされていたわけね」


 レイも同様の気持ちの様で大きくため息をついていた。

 そう、あの依頼自体がすでに自作自演、本当に全て彼に仕組まれていたということだ。


 俺たちの表情に満足気に笑う彼をみて嫌気がさす。

 一体いつから目をつけられていたのか、いや考えたくもないな。


「だがやはり我が見込んだ男だった。それでもその後スカーレット様が撃退されたと聞いて驚いたぞ」


「ゲブよ、そのことでちょっとよいか」


「なんでしょう?」


 ファフニールがケトを引き連れ、俺たちを背に小さな声で話し出す。


「頼んだぞ」


「承知しました」


 話が終わったようで戻ってくる2人。


「何を話したの?」


「それは内緒じゃ。さあ、そろそろ帰るのじゃ!」


 どうやらヒソヒソ話だけあり言いたくないらしい。


「帰ると言っても……馬車ももうないわよ?」


 とケトを睨むレイ。

 確かに馬車なしでこの暑さの中、砂漠を抜けてカルタナに帰るのはだいぶしんどい。


「案ずるな、時間になったらくるように伝えてある」


 「ほら」という声に振り向くと、遠くに馬車の影が映る。


「ではまた会おう。スカーレット様もどうかご達者で」


 出来ればもう関わりたくないかもしれないなと思いながら馬車に乗り込む。

 そして久しぶりのカルタナを目指し、馬車は走り出した。


 ☆★


「さて、真なる英雄になるか、それとも……いや、やめておこう。我らに栄光があらんことを」


 だんだんと小さくなっていく馬車を見つめ、砂漠の主が呟いた。


 ★☆


 ⭐︎以下後書き⭐︎

 これにて第2章完結です。

 多くの応援ありがとうございます。

 これから物語は折り返しの第3章に進みます。

 全4章構成予定で第3章は物語でいう『転』にあたる内容になるかと思います。

 よろしければ最後までお付き合いください。


 ここまで読んでくださった皆様へ。

 この作品を読み、少しでもおもしろいと思っていただけましたら、よければフォロー・評価よろしくおねがいいたします。

 感想・レビューの方も随時お待ちしております。

もちろん読んでいただけるだけでも大変うれしく思います。

 では、これからも物語は続いていきますのでよろしくおねがいいたします。

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