第66話 《盗む》が盗むもの
「どういうこと?」
「そのままの意味じゃ、我がこやつの生みの親じゃ。のぅ、ゲブよ」
「その通り。私はスカーレット様により生み出され、生命の進化を導く命を授かったドラゴンだ」
うん、まるで意味がわからないけれどケトがファフニールに従っているのは確かなようだ。
「というか、スカーレットって? ケトもゲブって」
「ハハハ、驚いたか? 我等はドラゴン、いくつも名を持っていてもおかしくなかろう」
おかしいかはわからないけど、ややこしい。
今回だって最初からファフニールがスカーレットだってわかっていたら戦いにならなくて済んだかもしれない。
ケトもファフニールと言う名前を知らなかったようだし。
「もういいのかしら?」
「ああ、うん大丈夫と思うよ」
戦いが終わったと察してレイも合流する。
「じゃがしかし、そのおかげでわかったことがあるぞ」
「わかったこと?」
「その《盗む》の事じゃ」
先の戦いで《盗む》の事がわかったと言い張るファフニールに疑心していると、不敵な笑みを浮かべて話しだす。
「それはおそらく魔王の力を盗むものじゃ」
「魔王の? 力?」
何を言っているんだ?
わからないという顔をしている俺に彼女は続ける。
「我らドラゴン含む魔物とはな、魔王から創りだされたものなのじゃ。つまりそれらのスキルは魔王の力の一部という事になる。そして我の心臓も魔王の力を封印したもの、つまりお主が盗んでいるのは魔王に関連しているものということじゃ」
あのファフニールの真剣な説明を聞く。
ドラゴンが魔物ということなど、初めて知る事があるけれど大概納得できた。
しかし、それでは納得できないものがある。
「だけど俺が一番最初に盗んだものは奴隷紋だ、それは人間が作ったものなんじゃないか?」
そう、一番最初に盗んだ奴隷紋。
これだけは人間が使っているものだ。
しかし彼女はそれでも呆れた様にため息を吐き、答える。
「なぁ、主人よ。同位種や人間よりも上位の存在を服従させるなどという術式、そんなものはおこがましいとは思わんか?」
全く気にもかけた事がないところを突かれ驚く。
ゲームなどでは催眠術や相手を操る魔法なんてものは常識的にあるからだ。
だけど彼女の言いたい事もわかる気もする。
「じゃあこの術式をつくりだしたのは……」
服従させることができるのは術式を編み出した者よりも下位の存在のみ。
とすればこれはやはり……。
「神でなければ魔王じゃろうな。そして神である可能性は低い。それがなぜ存在し、どうして人間が使えるようになったかまではわからぬがの」
想像通りの答えが返ってくる。
呪術師ではなく元を辿れば魔王の物ということだ。
しかし何故今は呪術師が使えるようになっているんだろうか、ファフニールがわからないなら俺にわかるはずもないのだけれど。
「私はそんなものを……」
レイが唖然とする。
無理もない、彼女は奴隷だった間ずっと奴隷紋を身に掛けていたのだから。
「じゃあファフニールのそれも解いた方がいいんじゃないか?」
魔王のものなんて危険かもしれない。
「よい。これは主人との、そして人間達との契約じゃ。このままでよい」
額当てを指でトントンと叩いて笑う。
なるほど彼女も人間を仲間と思う様になったということだろう、その顔には優しさが見られた。
「でじゃ、主人は人間の魔法やスキルは盗めないんじゃったな?」
「うん、盗めないみたいだね」
俺の答えに納得して頷き、続ける。
「それはな、人間は神が創り出したからじゃ。だから人間やその他神が創造した生物の持っているものは盗めん、魔王の力がないからの。今回、ゲブに施した聖紋を盗めんことでそれを確信したのじゃ」
「聖紋?」
また聞きなれない言葉だな。
「我が特別に神から授かった力。生命力を分け与え、従者を生み出すだすものじゃ」
「ほれ」とケトの額に指をさすと、紋様が白く光り輝いて浮き上がる。
これが聖紋なのか。
一見奴隷紋と似た様なものに感じるが、これは神からのものらしい。
「でもどうして魔王から生み出されたファフニールが神から力を貰っているのかしら? それにドラゴンが魔王を封じているのもおかしいと思うのだけれど」
「確かに、今の話じゃドラゴンは魔王側の生物じゃないのか?」
レイが言うことに納得する。
ゲームでも今この世界の現状も考えて、神と魔王というのは対立関係にあるのが基本だ。
現に今も人間は魔物を討伐するし、魔物は人間を襲ってくる。
魔王が生み出したドラゴンが魔王を封じて、さらに神から力を授かるなんて矛盾している。
「それはのぅ――我ら4体のドラゴンがかつて魔王を裏切り、神に寝返ったからじゃ」
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