第65話 嵐を貫く

「打ち消し合うものだと思ったんだけどね」


 竜巻同士は打ち消し合うどころか重なり合い、一つのさらに巨大な竜巻を誕生させる。

 それは俺たちを隔てる様に砂を巻き上げながら吹き荒れ、奥の様子はみえない。

 先程とは違いすぐに消える様子のないそれは計算外、さらに戦いにくくしてしまったと後悔する。


「シャドウ」


 ひとまず砂塵に紛れ姿を消し、様子を伺う。

 さあ、どう出てくる。

 竜巻を避けて左か、右からか……それとも。


「――そうくるのか!」


 迂回してくるかと思った矢先、嵐が真ん中から貫かれる。

 超高速で体を回転し突っ込んでくるそれは、まさに巨大な角そのもの。


「シールド!」


 不意を突かれ慌てて防御壁を展開するが、ダメだこれは防げない。

 また慌てて宙返りし乗り越えようと試みる。


「――ッ!」


 壁がないかの様に一瞬でそれは砕かれ、避けようとした体を掠める。

 わずかに掠めたぐらいだったはずだが、その勢いに体がもっていかれ、ぐるぐると視界が高速回転する。

 シャドウは解かれ、地面まで放り落とされた体を起こす。


 HPゲージの4分の1が一気に持っていかれている、他の人なら今の様に触れるだけで絶命だっただろう。

 だけど今回は敵が悪かったな、この程度なら擦り傷すら残らずに回復できる。

 とはいえ、直撃は避けるべきか。


「再生、そして盗む」


 回復させ、突き抜けていって背を向けるケトに向かい影の手を伸ばす。

 ケトがこちらに振り向いたところで影の手が彼を掴む。


『見事、あれでもまだ立てるか。普通の人間ならば掠っただけでも即死なのだけどな』


 奪ったのは《デスホーン》、死の角か。

 確かにあの威力はその名に相応しい。

 再び空に戻り彼と対峙する。


『ではもう一度いこうか』


 ケトの頭部の鋭い角こちらを向き、翼を一度羽ばたかせ一気に直進してくる。

 そして翼を閉じて体捩り、そのまま反動で高速回転させることで体全体にわたる巨大な角を形成した。


「デスホーン」


 あれの対処法はわからない、今は同じ技で対抗するのが1番だ。

 巨大化した影が先端を尖らせドリルの様に回転する。

 ケトのそれとは逆回転にしたそれを放る。


 巨大な角同士が交錯し、あまりの摩擦に凄まじい量の火花が飛び散った。


「盗む」


 回転が打ち消しあい、収まろうとするところに《盗む》を使用するが、それはケトの体を通り抜けていく。

 ――もう盗めるスキルはないみたいだ。


 そして、互いのデスホーンがついに完全消滅する。


『主人よ、もう盗めるものはないみたいじゃな』


 ファフニールか。


「そうみたいだけど、一体何を考えて――」


『もう一度ゆくぞ!』


 余裕はない、彼の角がまたこちらを向く。

 次は回転が収まった隙に《灼熱》を撃ち込んでみるか。

 デスホーンで対処できるのがわかった以上、こちらが断然有利。


「デスホーン」


 さっきと同じ様に影の角をケトに向ける。


『そこまでじゃ!』


 お互いに再びぶつけ合おうとしたところにファフニールの声が脳に響く。


『この声はまさか!?』


 それはケトも同じだったのか、驚きの声と共に体が光に包まれていく。

 そしてその姿は再び人間のそれに戻った。


「スカーレット様でしたか」


 ケトは人間の姿になるやいなやファフニールの前に跪く。

 スカーレット? まさかファフニールがケトの言ったスカーレットだったのか。


「まさか主人にここまで気づかんとは、あきれたものじゃな」


「いえ、まさかこの様な姿になっていようとは思わず……」


「しゅ、主人?」


 ファフニールがケトの主人っていうことか?

 意味がわからず呆然とする。


「そうじゃ、こやつは――我が生み出したドラゴンじゃ!」


 まさに青天霹靂。

 衝撃な発言に、さっきまでの戦いを忘れるぐらい俺の頭は混乱した。

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