第64話 砂漠の竜

 その姿はファフニールの言う様にドラゴンのそれ。

 茶色の体に大きな翼を持ち、頭部や背中には角が幾つも生えている。

 赤く鋭い眼光を放ち俺を見据えている。


 だけど茶色のドラゴンなんているのか?

 創造神話では火、水、光、闇の4体のはず。

 ファフニールも4体のドラゴンが魔王の力を封印していると言っていた。

 じゃああれは何だ? いや色のイメージが違うだけで他の3体の内の1体なのか?


『この姿をみせるのはいつ以来か。スカーレット様を撃退したその力、楽しませてくれよ』


 スカーレット様? 誰なんだそれは。

 聞き覚えのない名前に戸惑うが、考えている暇は無さそうだ。


「主人よ、あやつから盗めるだけ盗んでみせよ」


「ファフニール? ――ッ! 危なかった」


 会話を遮るように砂弾が飛んでくる。

 なんとか察知して空に逃れたが、すでに目の前にはその巨体が待っていた。


「――ッ!! 再生」


 なんとか体を捩り致命傷は逃れるが、体を強く地面に叩きつけられる。

 そしてすぐさま再生で回復して難を逃れた。


「盗む!」


 奴の体に影の手が伸びていく。

 ファフニールと同じなら嫌がるはず。

 しかしケトにその様子はなく、影の手がスキルを盗み取った。

 いや、ファフニールも最初は普通に盗むを喰らってから嫌がったか。


『決勝で見て何かと思ったが、なんともないな』


 そう思ったが、やはり特に嫌がっては無さそうだ。

 盗み取ったのは《ドラゴンクロー》、ファフニールのスキルにもあったがあの時は盗めなかったものだ。


「ドラゴンクロー」


 影の手が巨大で厚い竜の手を形作りケトを襲う。


『ほう、なんと。流石だ』


 体勢を崩すも地に堕とすこと程ではなく、すぐにこちらに向き直ってくる。


「盗む!」


 さらに影の手がケトからスキルを盗む。

 今回は《ドラゴンバイト》。


『遊びに付き合うのもよいが、こちらもいくぞ』


 急降下し、そのまま腕が振られる。


「ドラゴンクロー」


 横跳びで躱し、逆にこちらからお返しに振り落とす。

 地面に叩きつけるに成功するがすぐに起き上がってくる。


「ドラゴンバイト」


 影が竜の顔を形作りその口を思い切り開いてケトの首を襲う。

 しかし、その鱗は硬く歯は通らずに影が霧散する。


『おもしろい、技を真似するか』


 ようやく気づいた様で翼を羽ばたかせ距離を取るためか後ろに下がっていく。

 よし少し時間ができた、大技を試してみよう。


「灼熱」


 影の手は再び竜の顔を形作り、口から漏れ出すほどの炎を溜め込む。


『それは……』


 ケトが危険だと察知したか翼を高速で羽ばたかせ風を起こす。

 それはみるみる砂を巻き込んだ竜巻となった。


 そして充填が完了した炎が一気に吐き出される。

 それは白い光を放ちながら敵を飲み込まんと襲うが、竜巻に阻まれともに昇天する。


 かなりやっかいだけど、あれも盗めるのか?


「盗む」


 手段を増やすため再び盗まんとするが、流石にその手で切り裂かれてしまう。

 ――なら。


「絡みつく」

 

 影をケトが切り裂こうとするが、するりとよけて捕縛に成功する。


「アイスフォール」


 そのまま身動きがとれない敵に上から氷の塊を落とし、ケトは地に堕とされる。


「盗む」


 隙ができたところに再びスキルを盗みにかかる。

 《デザートストーム》か、さっきのあれだな。

 よし、有用なスキルを手に入れることができた。


『いやはや、本当に強いな』


 砂埃がまだ舞う中、巨体が起き上がるのがわかる。


「それはどうも」


『ではそろそろ本気でいくぞ』


 今までは本気じゃなかったのか。

 砂埃を突き抜けて奴の体が上空に現れた。

 

 流石ドラゴン、まるでダメージを受けてないかのような健在な姿に思わず苦笑いがでてしまう。


 そしてケトは翼を高速で羽ばたかせ、また巨大な竜巻を作り出した。


 やってみよう。

 目には目を、歯には歯をだ。


「デザートストーム」


 上空、ケトに並び対峙する。

 同じスキルを使い影の翼が勢いよく羽ばたき風を起こした。

 それは前にあるものと遜色ない大きさで吹き荒れながら進む。


 そして、竜巻同士が激突した。

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