第63話 王たるは人でなし

 短剣で向かってくる砂弾を切り裂く。

 しかし数が多い、これ程の《サンドボール》を操れるとは。


「キリがないな……ウィンドエッジ!」


 砂弾の僅かな隙に風の刃を放つ。

 それは迫り来る弾丸を切り裂きながらも勢いを保ちケトを襲う。


「――防がれたか」


 そのまま切り裂くかと思われた刃は、寸前のところで現れた砂の壁に阻まれる。

 《サンドウォール》か、しかもあっさりと阻まれたところをみると相当強度が高いとみえる。


 魔法使いなのか?

 ケトの魔法をみて職業を考察する。


「ほう、存外悪くはないな」


「魔法をあまり使ったことないような言葉だね」


「戦い自体が久しいからな」


 なるほど、確かに領主となれば戦闘する機会もないだろう。

 しかしそれでいてこれだけの魔法が使えるとは。


「じゃあこれはどう――キルシックル」


 巨大な鎌を手に、弾幕が無くなった間合いを全力で詰める。

 よし今度こそ、俺は障壁に向かい鎌を振り下ろす。


「ほう、これを裂くか」


 よし砂の壁をこじ開けた。

 足を今一度踏ん張り、そのままケトに鎌を――。


「ッ!?」


 急激に視界が砂に覆われ、咄嗟に身を引く。


「バットンウイング」


 これは《サンドウェーブ》か、飲み込まれる前に上空へ退避する。

 上級魔法が使えるという事はやはり魔法使い。


「ふむ、やはりそれは魔物の代物だ」


 次に迫り来る砂の球を鎌で切り裂きつつ急降下、そのまま展開された壁を破り、彼の後ろへ着地。

 そして空いた背中に鎌を振るう。


「ふむ、やはりこの程度ではやれんようだ。流石は英雄、流石はドラゴンと渡り合った男だ」


「随分と身軽なんですね」


 完全に捉えたかに思われた鎌は空を裂く。

 ケトは振り払われた鎌を高く跳んで躱したのだ。

 魔法使いにあるまじき身軽さに驚いてしまう、まるで重力を感じていないみたいだ。


「ハハハ、良い。ならばこれはどうだ」


 ケトの手に砂が集約し、やがて俺のと同じような短剣を形造る。

 

「魔法使いが剣?」


 こんな魔法あったか?

 いや、そもそも魔法使いがそれを剣として使うなんてナンセンスな戦いをするはずがない。

 つまり非合理的な魔法だ。


「ゆくぞ」


「――!」


 重い、そして速い。

 速さなら誰にも負けない自信があり、この攻撃にもついてはいける。

 しかしやはりこれは魔法使いの速さと力ではない。


「ほう、流石は盗賊だ。ついてくるか」


 魔法で体を速くしているのか?

 いやそんなこともなさそうだ、体に魔力を感じない。


 連撃を弾き返し、逆に攻勢をかける。


「うむ、やはり速さではかなわぬな」


 しかし砂の剣と補うように展開される壁に阻まれる。

 でも速さでは優っている、このまま押し切る。


 短剣で攻撃を連続、ケトが防ぎ切れず砂の壁を展開する。


「オーガスタンプ」


 大きな影の拳が砂の壁を打ち砕き、そのままケトを突き飛ばした。


「やったか?」


 衝撃で辺りに砂塵が舞う。

 手応えはあった……でも。

 その中から影が揺らめいてみえた。


「タフですね」


「いや、今のは効いたぞ。やはりこの姿では分が悪い様だ」


「何を言って……?」


 今の姿? ケトの言葉に戸惑っていると彼の体が突如光りだし、粒子となる。


「なんだ?」


 危険を感じファフニールのいる付近まで後退する。

 そう、それはまさにあの時のファフニールのようだ。

 あの時は小さくなったが、今回はどんどんと大きくなりそれは蛇の様な姿を模していく。


「あれは……バジリスク?」


 そう、あれはあの時戦ったバジリスクの姿に似ている。

 しかしそんな言葉にファフニールが嘲笑った笑いをする。


「ハハハ、そんな玩具と一緒にするでない」


「じゃあ、あれはなんなんだ……」


 バジリスクじゃない?

 ファフニールの言葉に固唾を飲む。

 確かに一旦は蛇の形になろうとした光の粒子達がもう一段変化を遂げていく。

 だとしたらあれはなんだというんだ。


「あれは――ドラゴンじゃ」


 ファフニールの言葉に連動するよう、巨体を作りあげた光の粒子が弾けとび、中から生物が姿を現した。

 



 

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