第61話 アンモライトの宝石

 次の日、コロッセウムでは表彰式がおこなわれた。

 広いステージに立つが戦う相手はもういない。


 アルダシールはあの後から今に至るまでずっと睡眠状態にあるらしい。

 大丈夫かと心配したが、命に別状はないようで安心した。

 しかしいつ目覚めるかなどはわからないとのことだ。


「皆もすでに知っているとは思うが、先日このイスティナ最強の強者が決まった!」


 俺の隣にはこの都市ギゼノンの領主ケト=ラゼフが立ち、皆に演説を始めている。

 そしてその演説を聞くはこの3万人が収容できるといわれる会場を埋め尽くす観客達だ。


「ロビン=ドレイク。バジリスクを討ち、ドラゴンまで退けた英雄はまた偉大なる功績を打ち立てた!」


 ケトの演説は見事だ、堂々とし観客が湧く間を作ってうまく盛り上げている。

 これが賢王と呼ばれる男の力であろう。


「今一度この最強の男に最大限の賞賛を与えてほしい!」


 割れんばかりの歓声に包まれる観客席。

 そこにはレイの言った通り、賭け目的や人の死に歓喜する狂気を孕んだ者もいると考えると喜べはしない。

 俺も大会を通じてその目で見てしまったのだ、この闘技場というのは人を狂わせてしまう場所でもあるのだろう。


「では、これを」


 スタッフからケトへ、そして俺へと向けられたのは金で作られた大きな杯。

 ギラギラと照らす太陽に当てられ眩しいばかりに輝きを放つそれを俺は受け取る。


「なあ、ロビンよ。そなた我の元へ来る気はないか?」


 うるさい程の歓声のなか、ケトが俺に言う。

 だけどそれさ考えるまでもないことだ。


「いえ、誰かの下に付くつもりはありません。俺は冒険者として皆の役に立ちたいと思っています」


「そうか、残念だな」


 俺の答えに表情を崩さず笑って返すケト、残念だと本気では思ってないようにも思える。


「依頼ならいつでも引き受けますよ」


「それは頼もしい」


 お互い笑顔で握手を交わす。

 表情には出さないがその手が少し力強く感じたのは気のせいなのだろうか。


「よし! 皆最後にもう一度盛大な拍手を!」


 ケトの声に会場が答え、表彰式は幕を閉じた。


 ♢


「よう」


 会場を後にしようとすると出口付近でロランがレイ達とともに出迎えてくれる。

 心配していたが口調や表情がいつものロランにもどっていて安心した。


「優勝したよ」


「ああ、おめでとう。見れなかったのがくやしいよ」


 怪我があって、決勝は見れなかったみたいだ。

 残念ではあるけれど仕方がない、約束は守ったのだ。


「いつかまた戦える日を楽しみにしてるよ」


 今回は再戦は叶わなかったけど、またいつか戦える日がくるはずだ。

 何故なら彼は俺の親友ライバルだから。


「その時は手加減されないように何倍も強くならないとな」


「じゃな、今のままじゃと主人の相手にはならんぞ」


「ハハハッ、お嬢ちゃんは手厳しいな」


 辛辣なファフニールに苦笑いするがその光景も微笑ましい、本当に元気になってよかった。

 またきっと強くなるだろう、その時まで誰にも負けないようにしないと。


「じゃあ、俺はもう帰るよ。またカルタナでな」


 だされた手に「あぁ」と頷き握手を交わす。

 手を振って歩き出す彼は相変わらずキザな笑みを見せていた。


「私達も行きましょうか」


「うん……てあれ? それは?」


 ふと髪をかきあげたレイの耳に綺麗な宝石がついているのが見えた。


「あら、気づいたの?」


 そう言ってもう一度髪を上げてそのイヤリングを俺の方にみせてくる。

 それは緑、赤、青と三層に大きく分かれて光る宝石。

 その層の中に黄色などの色も見え、それはそれは不思議で綺麗なものだ。


「うん、それがレイが作ったもう一つのアクセサリー?」


「そうよ」


「なんていう宝石なの?」


「アンモライトっていうらしいわ」


「どんな宝石なの?」 


 俺にくれたこのラピスラズリのネックレスにも、ファフニールにあげていたブラックダイアモンドにも意味があった。

 ならばこの自分のために作ったアンモライトのイヤリングにも意味があるはず。


「知りたい?」


「ああ」


「フフッ――秘密よ」


 そう言って微笑み、歩き出すレイ。

 相変わらず秘密主義、1つ知ったと思ったらまた秘密が1つ増える。


 だけど、その笑顔はたまに見せる今までの笑顔よりも少し違ったような感じがして――。

 俺にはそれがとても明るいもののように思えたんだ。

 

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