第59話 ドラゴンハート

「でも、どうして消えたんだろう」


 ファフニールが叫んで落ち着いたところで改めて考える。


「そうじゃな、またどこかにいってしまったか……あるいは――」


 ファフニールが考えて見解を述べる。


「あるいは?」


「主人の体に取り込まれた、か」


「なら俺もああなるかも知れないってこと?」


「それはわからぬ、主人は人間としては規格外じゃからの」


 アルダシールは明らかに正気を失っていた、俺もああなるかもしれないと思うとゾッとする。


「その、ドラゴンハートっていうのはそもそもなんなんだ?」


 ただの心臓かと思えば人間が取り込むことができ、そしてあの狂気じみた力を得る。

 俺からみたら明らかに歪なものだ。


「そうじゃな、あれは我の魔力の3分の2を閉じ込めた心臓じゃ」


「じゃあそれを失ったからあの時――」


 ファフニールとの戦闘後を思い出す、確かにドラゴンハートを盗んだ後体が小さくなっていた。


「うむ、その通りじゃ」


「なんでそんな魔力を心臓に閉じ込めないといけないのかしら」


 レイの言う通りだ、そもそも心臓に魔力を閉じ込めるなんて聞いたことがない。

 まあそれは人間とドラゴンだから違うのかもしれないが、それでも片方の心臓に半分以上閉じ込めるのには理由があるはずだ。


「それはな、その中にある魔王の欠片を封じ込めるためじゃ」


 魔王? 魔王だって?

 この世界に魔王なんてものがいるのか。

 いや勇者という職業があるとされているのだ、魔王だっていると考えた方が自然。


 だとすると勇者はただのステータスが良く、多大なる善行をしてきた人がなれる職業というわけではないということか。

 伝説とだけあって誰もなった者を知らない職業だ、言い伝えられていることが真実とは限らない。


「我ら4体のドラゴンが魔王の力の大部分を心臓部に封印しておる、だからあの心臓は返してもらわないと困るのじゃ」


「それじゃあアルダシールのあの力は魔王の……」


「そう言うことじゃな。ほんの一部が漏れ出したのじゃろうが人間にとっては身を滅ぼすほどの、過ぎたるものには変わりない」


 あの波動の威力で一部か、とんでも無いな魔王の力は。


「じゃあ、4つのドラゴンハートが揃ったら――」


「わからぬ、わからぬが魔王が復活する可能性もある事は確かじゃ」


 なるほど、それは大変だ。

 どうにかして返さないといけない。


「ロビン、本当にドラゴンハートはなくなったの?」


「え、うん。確かに無くなったんだよ」


「体に異常は?」


 心配そうに聞いてくるレイ。

 だけど体にはこれと言って違和感もない。


「大丈夫、なんともないよ」


 そう言うと彼女は「そう」と言って安堵の表情を見せる、また心配かけちゃったな。


「まあ、だが1つでもあのように危険な物じゃが魔王が復活するということはなかろう。今慌てても仕方あるまい」


 1番慌てていたのはファフニールだけど、俺のせいだから何も言えないな。


「じゃが見つけ次第きちんと返すのじゃぞ」


「わかった、約束する」


「ならばよい」


 とりあえず今は考えてもどうにもならなさそうだ。

 また誰かの手に渡る前には探し出したいが手掛かりも何も無い。

 彼女の言う通り慌てても仕方がない。


 だけどあれは一体何だったのだろう、ウインドウとかHPゲージとかゲームみたいな世界だけどバグって事は無いよな?


「じゃあ今日はもう帰りましょう、優勝祝いでもしてあげなきゃね」


「そうだね、表彰式は明日みたいだし帰ってご飯にしよう」


「うむ、飯じゃ! 祝いというからには豪華なのじゃろな!?」


 さっきまでの真剣な表情からは考えられないほどキラキラと目を輝かせるファフニール。

 だけどこの方が彼女らしいか。


「もちろん、調査は完璧よ」


 そう言うとまたあの本を取り出す。

 手料理かと期待したのだけど残念ながらそうでは無いらしい。


「それは楽しみじゃな!」


 でもそれはそれで2人ともわくわくしているしいいかな。

 今は優勝祝いを期待しよう。

 そして彼女との約束、無理に聞き出そうとは思わないけれど教えてくれれば嬉しいな。


 ♢


「おぉ! これは美味そうじゃな!」


 やってきたのはギゼノンのいかにも高級そうな外観をした店。

 看板の文字が金で描かれ、外壁は黒く輝く大理石で造られているようだった。


 中に入ると個室に通され、レイが注文をしたところ、俺達が囲む大きな丸テーブルが料理で埋め尽くされた。


 スパイスの効いたいい匂いが立ち込め、ファフニールの言う通り凄く美味しそうだ。


「じゃ、とりあえず優勝おめでとう」


 レイの祝福の言葉で乾杯をする。


「プハーッ! これは効くな!」


 そう言うが飲んでいるのは赤い野菜、トメトのジュースだ。


「うん、美味しいわ」


「そうだね、凄く美味しいよ」


 どれも美味で、このスパイスの効いた丸鳥は特に絶品だった。


 ♢


「食べた、食べたのじゃ!」


「ご馳走様」


「ねえ、約束したこと覚えてるわよね」


 食事が終わり、皆満腹になったところでレイから切り出される。

 約束とはもちろんあのことだ。


「うん、もちろん」


「少し暗い話にはなるけれど今話してもいいかしら?」


 真剣なレイの表情に目を見て頷く。

 そして彼女は語り出した――自らの過去についてを。

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