第58話 悪魔の臓物を盗み取れ
「シールド」
相殺方法がわからないのでまた防御壁を展開する。
今度は俺だけ守ればいい。
狭い範囲で密度の高い壁を5枚形成した。
「ア゛アアァァァァ!」
悪魔に似た咆哮と共に極黒の波動が放射される。
刹那にシールドにぶつかる。
今度は大丈夫、耐えれるはずだ。
1枚、また1枚と突破されるがやはり勢いが収まるのが早い。
結局2枚残して衝撃がなくなった。
「――ガバァッ!」
そして膝をつき大量の吐血をするアルダシール。
やはりあれが副作用なのだろう、人に過ぎたる臓物の代償と言うべきか。
「もうやめたほうがいい」
俺が言うも奴の耳には届いてはいないだろう、のそっと何かに押される様に立ち上がった。
「ガ、ガガギギガガガ……ギアアアァァァァ!!」
まるで壊れた様な声でカクカクと動き、また波動を放つ体勢に入る。
あれは本当に人間なのだろうか……。
『主人よ、早くせんとこやつの体がもたんぞ』
『わかってる』
「ダアァァァァァッ!!」
「盗む!」
影の手を伸ばして阻止を試みるが間に合わず、波動砲が発射される。
俺の影の手を呑み込み、それが迫る。
「シールド!」
くそ、展開が間に合わない。
ならなんとか逸らす!
2枚のみ展開された防御壁に当たったのを確認し、体勢を右に逸らして衝撃を逃す。
「――ッ!」
なんとか斜め後方に逸らすことができたが、それでも左肩を掠められてしまった。
痛みを通り越して感覚がない。
見ると焼け爛れた様に黒く変色しているが、すぐに再生させる。
「――グフゥオッ!」
再度大量の血を吐くアルダシール、息も絶え絶えで体が限界に近づいているのがわかる。
次あれを放てば死ぬかもしれない。
「絡みつく!」
影の手がアルダシールを絡めとり動きを止める。
「ガガ、潰す、潰す潰す潰す……ギギガガガ……」
しかしそれでもタガの外れた肉体は無理矢理にゆっくりと動きを始める。
長くは持たないな。
「シャドウ――盗む!」
体を隠し、影の手を伸ばす。
影の手が奴を取り込もうとしたところで拘束ごと斬り裂かれる。
だけど、もう遅い。
「盗む」
「ア、ァ!?」
《絡みつく》も《盗む》もダミー、俺はその間にアルダシールの後ろに移動していたのだ。
影の手がアルダシールを呑み込む。
「グァアアアアアアアアア!」
断末魔の様な叫びが耳をつんざく。
それはやはりファフニールの時と同じ、ただ手が盗んでくるだけでなく、相手の体全体を包み込む。
「一体何が起こっているんだ?」
なおも叫び声が聞こえる。
その声にこのままだと死んでしまうのではと感じた所でようやく彼が解放される。
「大丈夫?」
反応がない。
外傷はなさそうだが顔色が悪く、口もガッと開いており、白目を剥いている。
まずい、殺してしまった。
そう思ったがその後すぐに目が塞がり、広がった口からイビキが鳴り響いた。
「え? 寝てる?」
確かに極度の寝不足みたいな感じだったけど、まさかここで寝るのか?
一体何があったのか聞きたいけれど、触れても起きる気配は全くない。
「とりあえず勝ち、でいいのかな……?」
短剣を掲げると観客席から戸惑い混じりの歓声があがる。
そりゃそうだよなと苦笑いするが仕方がない。
「優勝はロビン=ドレイク! 皆さらなる拍手を!」
ケトの響き渡る声に歓声と拍手が高まる。
優勝は優勝だ、これで約束は果たした。
♢
「主人よ!」
「ちょっと走ると危ないわよ」
ステージから退場し、薄暗い廊下に入るとすぐさまファフニールが駆け寄ってくる。
「我の、我の心臓は? 無事じゃろうな?」
なるほど、一刻も早く返せと言うことか。
俺は持ち物アイコンを確認する。
『ドラゴンハート(火)』の文字があり、確かにあの時ファフニールから盗んだ物と同じ物だった。
「うん、じゃあ返すね」
そう言ってドラゴンハートを取り出そうとした、その瞬間。
「――え?」
目を疑った、確かにあったそれが急に文字化けのようにノイズがはしり消え去ったのだ。
「ん? どうしたんじゃ?」
「消えた……」
「なんじゃと?」
「消えたんだ、ドラゴンハートが」
一瞬この空間の刻が止まる。
そう、お互い事態の把握ができなかったのだ。
そしてだんだんと状況が飲み込めたのかファフニールの体が震えて――。
「なんじゃと!!」
廊下にその咆哮にも似た絶叫が響き渡った。
⭐︎以下あとがきです⭐︎
決勝とありアルダシール戦が2章最後の戦闘……というわけではありません。
今しばらく第2章にお付き合いください。
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